第240回相続コラム 相続分の放棄とは何か 相続放棄との違いも解説
前回、前々回のコラムでは、『相続分の譲渡』について解説しました。相続分は譲渡することが可能ですが、実は、放棄することも可能です。今回のコラムでは、相続分の放棄とは何か、よく似ている相続放棄との違いも含めて解説したいと思います。
相続分の放棄とは
相続分の放棄とは、自身の法定相続分を放棄する意思表示のことをいいます。簡単に言うと、自身の遺産の取り分を放棄することです。
前回、前々回のコラムで解説した『相続分の譲渡』は、自身の遺産の取り分を特定の誰かに譲り渡すものであるのに対して、相続分の放棄をすると、放棄した者が有していた遺産の取り分は、他の共同相続人が、その相続分の割合に応じて取得することになります。
例えば、ある人が亡くなり、その相続人として、妻と、長男・長女がいたとします。それぞれの法定相続分は、妻1/2、長男・長女はそれぞれ1/4となります。
仮に、長男が相続分を放棄すると、長男の相続分1/4を、妻と長女が、その相続分の割合(2:1)に応じて取得します。(※妻の法定相続分は2/4、長女の法定相続分は1/4なので、両者の相続分の割合は2:1。)
そうすると、結果として、妻は1/2+2/12=2/3の遺産を取得し、長女は1/4+1/12=1/3の遺産を取得することになります。(※長男の相続分1/4を2:1の割合で分けると、妻は1/4×2/3=2/12、長女は1/4×1/3=1/12を取得)
相続放棄との違い
『相続分の放棄』と『相続放棄』。字面はよく似ていますが、両者には様々な違いがあります。
手続きの方法
相続放棄は、家庭裁判所において申述を行う必要がありますが、相続分の放棄には、特に様式の定めはありません。遺産分割協議や調停の場において、相続分を放棄する旨の意思表示を行い、他の相続人の合意を得られれば、それだけで成立します。
期限
相続放棄は、相続が開始したことを知ったときから三ヶ月以内に行う必要がありますが、相続分の放棄には、特に期限の定めはありません。相続発生から遺産分割協議が終了するまでであれば、いつでも可能です。
効果
相続放棄をすると、その効果として、放棄をした者は、当初から相続人ではなかったことになりますが、相続分を放棄したとしても、その者が相続人でなくなるわけではありません。
つまり、相続放棄の場合には、相続人ではなかったという効果が発生するため、その結果、相続人の順位に変動を及ぼすことがありますが、相続分の放棄では、そのような効果は発生しません。
また、相続放棄をすると、プラスの財産だけではなく、借金や負債などのマイナスの財産も相続することはなくなりますが、相続分の放棄をしたとしても、借金や負債から免れることはできません。相続分の放棄は、単に、相続人間の合意にすぎないからです。
相続分の放棄をしても、借金や負債から免れるわけではないので、それらの負担から解放されたい場合には、相続分の放棄ではなく、相続放棄を選択する必要があるので注意が必要です。
遺産分割協議との関係
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになるので、遺産分割協議に参加する必要はありません。
それに対して、相続分の放棄の場合には、相続人でなくなるわけではないので、遺産分割協議に参加する必要があります。
もっとも、遺産分割調停の場合、裁判所に相続分放棄証書と印鑑証明書を提出すれば、調停当事者から離脱することが可能です。また、遺産分割協議段階の場合には、他の相続人から遺産分割協議に参加するよう申入れがあった場合に、その相続人に対し、相続分の放棄をする旨と、相続分放棄証書及び印鑑証明書を交付すれば、遺産分割協議の当事者から離脱することができます。
相続分の放棄は、「遺産は受け取りたくないが、特定の誰かに相続分を譲渡することには抵抗がある」という場合に選択されることがありますが、実務上、頻繁に利用されるものではありません。
「相続争いに巻き込まれたくない」、「他の相続人と疎遠で関わりたくない」という場合には、相続分の放棄ではなく相続放棄を検討することをオススメします。
おわりに
今回のコラムでは、相続分の放棄とは何か、よく似ている相続放棄との違いも含めて解説しましたが、いかがだったでしょうか。相続放棄は知っていても、相続分の放棄を知っているという方は少ないのではないでしょうか。
相続分の放棄は、実務上、頻繁に利用されるものではありませんが、相続放棄との違いをよく理解して、相続放棄すべきケースで誤って相続分の放棄を選択してしまわないように注意が必要です。また、相続分の放棄を行うと、その後の手続きや用意すべき書類も通常の相続と異なる場合がありますので、悩んだら、専門家に相談するのもひとつの手段です。
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