第210回相続コラム 新しい所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度とは(2023年4月1日施行)
- 2023.02.13
- 相続制度
- 所有者不明土地問題, 所有者不明土地管理制度, 空き家問題

近年、空き家問題、所有者不明土地問題がニュース等で報じられる中、そのような問題に対応すべく様々な関係法令が整備されつつあります。2023年4月1日には、「所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度」(以下、単に「所有者不明土地管理制度」)という新しい制度が施行されます。今回のコラムでは、 所有者不明土地管理制度とは、どのような制度なのか、その概略を解説したいと思います。
所有者不明の土地や建物がなぜ発生するのか
所有者不明な土地・建物とは、「登記簿を確認しても所有者が誰かわからない土地・建物や、誰が所有者かはわかっていても、その者に連絡がとれない土地・建物」のことをいいます。
所有者が不明な土地や建物が発生する要因は様々なのですが、相続の問題が大きな要因のひとつとなっているため、相続と無関係ではありません。
例えば、ある土地の所有者が亡くなり、その相続人がその土地を相続したとします。相続の際に、しっかりと土地の名義を変更する手続き(相続登記)をしていれば、所有者を把握することはそれほど困難ではありませんが、名義を変更せずに、放置してしまう方も少なくありません。相続登記がなされずに、故人名義の登記が放置されたまま、相続人について更に相続が発生すると、ねずみ算式に相続人の数が膨れ上がっていくため、膨大な数の相続人(相続人の相続人や、それを更に相続した者)が存在するため、誰が所有者なのか、共有者はどれだけいるのか、不明な状態となってしまいます。
また、相続が発生したとしても、故人の土地や建物が、必ずしも相続人に相続されるとは限りません。相続する際には、複雑で手間のかかる手続きも多いところ、めぼしい財産がない場合には、相続を放棄するというケースも珍しくありません。地方の山林や、田舎の空き家などは、相続されずに放棄される典型ともいえます。相続人が全員、相続放棄してしまった土地や建物も、多くの場合、所有者不明土地や建物となってしまいます。
新しい所有者不明土地管理制度とは
所有者不明土地管理制度は、所有者が不明となっている土地や建物について、利害関係人の申し立てにより、裁判所が管理人を選任する制度です。
所有者が不明な土地や建物は、そのままでは、土地の活用が困難となったり、また、倒壊等により近隣住民に危険がおよぶおそれもあるため、そのような問題を解決するために、土地や建物の管理人を選任できるようにしたのです。
現行法上の制度との違い
改正法施行前の現在でも、所有者が不明なため、管理者が不在の財産について、管理人を選任する制度は存在します。
行方不明者の財産を管理する「不在者財産管理制度」や、相続人の存在が不明な場合や、相続人が全員相続放棄した場合に遺産を管理する「相続財産管理制度」などです。
「不在者財産管理制度」や「相続財産管理制度」と、新しく創設された「所有者不明土地管理制度」とで大きく異なる点は、『管理の単位が異なる』という点です。
現行の制度では、基本的に、『人』を単位として、財産を管理します。「不在者財産管理制度」であれば、『不在者』という人をベースに、その者が所有する全ての財産を管理するのが不在者財産管理人となります。
同様に、 「相続財産管理制度」も、『被相続人』という『人』を基本単位として、財産を管理します。相続財産管理人は、『被相続人』という『人』をベースに、その被相続人が所有していた全ての遺産を管理することになります。
これに対して、「所有不明土地管理制度」では、人ではなく、所有者が不明となっている、『土地』や『建物』などの『不動産』を単位として、管理を行います。本来所有者である者に代わって、その者が所有・管理すべき全ての財産を管理するのではなく、所有者が不明で問題となっている、特定の『土地』や『建物』のみを管理するのが、「所有不明土地管理制度」であり、それが大きな違いであり、メリットとして現れます。
所有者不明土地管理制度のメリット
所有者不明土地管理制度は、『不動産』を管理の単位として管理人が選任されるため、その管理人は、不動産の管理のみを行うことで足ります。特定の不動産に関する問題を解決するために、わざわざ、『人』を単位に管理人を選任し、全財産を管理させる必要はありませんし、『人』を単位とした全財産の管理は、管理人にとって大きな負担となるだけでなく、管理期間も長期化してしまう傾向にあります。
つまり、所有者不明土地管理制度は、管理人となる者の手間を省き、問題解決の迅速化を図ることが期待された制度と言えます。管理人の手間を省けるということは、費用負担も軽減することにつながります。
共有不動産では管理単位の差が顕著
ある土地Xについて、その所有者が亡くなり、相続人として、AさんとBさんがいたとします。土地XはAさんとBさんの共有状態のまま、長い年月が経ち、AさんもBさんも亡くなったとします。
ここで、仮に、Aさんの相続人は不明、Bさんの相続人は不在者となっているとします。
上記のようなケースで、土地Xについて、何らかの対応が必要になり、管理人を選任することになった場合、現行法上の管理制度を利用すると、Aさんの共有持分について相続財産管理人を選任し、Bさんの共有持分についても不在者財産管理人を選任する必要があります。現行法上の管理制度では、『人』を単位に管理者を選任するため、共有不動産に対応する際には、管理者もそれぞれの共有者毎に必要となってしまいます。
新制度である、「所有者不明土地管理制度」を利用すると、問題となっている土地Xにつき、その土地を管理する者1人を選任することで足ります。
おわりに
今回のコラムでは、 所有者不明土地管理制度とは、どのような制度なのか、概略を解説しましたが、いかがだったでしょうか。同制度は、相続登記の義務化や相続土地国庫帰属法とともに、所有者不明土地問題の解決に役立つことが期待されている制度となります。今後、同制度の施行とともに、所有者不明土地問題や空き家問題が、どのように改善されるのか注視したいところです。
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