第209回相続コラム 相続放棄後の管理義務は誰に対して負うのか

相続コラム

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第209回相続コラム 相続放棄後の管理義務は誰に対して負うのか

第209回相続コラム 相続放棄後の管理義務は誰に対して負うのか

相続放棄を選択した場合でも、後順位の相続人等が管理を引き継ぐまでは故人の遺産管理を継続する義務を相続人(元相続人)は負うことになり、この義務を相続財産の管理義務といいます。今回のコラムでは、この相続財産の管理義務は、誰に対して負う責任なのかを解説したいと思います。

 

そもそも相続財産の管理義務とは

故人が残した借金等は、相続放棄をした相続人からすると“消えてなくなる”ことになりますが、借金以外の財産、例えば、家や土地、家財道具などが遺産として存在していた場合には、相続放棄によってそれらが物理的に消滅するわけでないので、誰かが管理する必要があります。

そこで法律は、相続放棄をした者に対して、一定の要件の下に、遺産の管理を継続する義務を課しています。

民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

具体的に、どのような要件で、どんな相続人が義務を負うのかは、「第206回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか ? 義務を負う相続人の範囲」をご覧下さい。

 

相続財産の管理義務は誰に対して負うのか

近年、空き家問題、所有者不明土地問題がニュースで取り上げられるようになり、大きな社会問題となっています。そんな中、自治体が、相続財産の管理義務を根拠に、空き家や空き地の管理を、相続放棄をした元相続人に追求するケースも見られ、相続財産の管理義務は、後に相続人となる後順位者等に対してのみ負う責任なのか、それとも近隣住民や自治体等も含めた広く第三者に対しても負う責任なのかが問題となります。

相続財産の管理義務は誰に対して負う責任なのか、実際に裁判になったケースは見当たりませんので、どちらが本当の正解なのかは現段階では不明です。

ただ、国土交通省が出した通達によると、相続財産の管理義務は、対相続人間の義務であり、近隣住民や自治体等の第三者との関係で負う義務ではないとされています。

国土交通省通達
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001486650.pdf

相続財産の管理義務は、令和5年4月1日施行の改正法により、「管理義務」から「保存義務」に変わりますが、名称が変わっても、対第三者責任ではないことに変わりはないと思われます。

 

土地工作物の占有者責任には注意が必要

相続財産の管理義務が対第三者責任ではないとしても、土地工作物の占有者責任が一切問われないということではないので、放棄者が占有している財産の管理は注意が必要です。

例えば、今にも倒壊しそうな建物について、相続放棄後に管理義務を負っている元相続人は、管理義務は対第三者責任ではないため、相続財産の管理義務を根拠に自治体や近隣住民から倒壊防止等の措置を強制されることはありません。ただし、放棄者が居住するなど占有していた建物が、倒壊によって近隣住民等に被害を及ぼし、土地工作物の占有者責任を定めた民法717条の要件を満たす場合には、同法に定める責任として損害の賠償を請求される危険性はあります。その意味では、一般第三者に対しても、ある程度の管理責任が要求される場合があると言えます。

民法717条1項
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

 

おわりに

今回のコラムでは、相続財産の管理義務が誰に対しての責任なのかを解説しましたが、いかがだったでしょうか。近年の空き家問題や所有者不明土地問題の発生には相続の問題が絡んでおり、今回は少し難しいテーマでしたが、相続が絡む問題は誰にでも起こりうるため、少しでも興味を持って頂けたらと思います。

当事務所では、長年相続問題に取り組んでおり、相続放棄を含む相続に関する相談を広く受け付けております。相談は初回無料となっておりますので、相続についてお悩みのある方は、お気軽にご相談ください。