第247回相続コラム 令和5年10月26日最高裁決定 遺留分侵害額請求権を行使した相続人と特別寄与料の負担

相続コラム

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第247回相続コラム 令和5年10月26日最高裁決定 遺留分侵害額請求権を行使した相続人と特別寄与料の負担

第247回相続コラム 令和5年10月26日最高裁決定 遺留分侵害額請求権を行使した相続人と特別寄与料の負担

令和5年10月26日に最高裁判所において、「遺留分侵害額請求権を行使した相続人が特別寄与料を負担するのか否か」について決定が下されました。特別寄与料という制度は、比較的新しい制度であり、最高裁の判例が示されるのは珍しいため、今回のコラムでご紹介したいと思います。

 

そもそも特別寄与料って何?

特別寄与料という制度は、被相続人の介護などを無償で提供することによって遺産の維持・増加に貢献してきた相続人以外の親族が、相続人に対してその寄与度に応じた金銭を請求できるようにした制度です。

前回のコラムで解説した寄与分に似た制度ではありますが、寄与分は、相続人であることを前提に、寄与の度合いに応じて他の相続人より多くの遺産を受け取れるという制度です。つまり、例えば、「長男の妻」がいかに被相続人に献身的に尽くし、遺産の維持・増加に寄与したとしても、「長男の妻」は相続人ではない以上、寄与分による恩恵は一切受けることはできません。

被相続人の療養介護等をする人が常に相続人とは限らないため、そのような者が何らの恩恵も受けられないというのは、あまり不公平であり、そのような不公平を是正すべく、相続人以外の親族に対しても、寄与度に応じた金銭を請求できるようにしたのが特別寄与料という制度になります。

 

特別寄与料は、相続人以外の親族に認められた権利です。
寄与度に応じた金銭を相続人に請求できます。

特別寄与料について詳しい解説は、
第150回相続コラム 相続人でなくても請求できます。家族を介護していた者が請求できる特別寄与料について」をご覧ください。

民法1050条第1項
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。

相続人が複数人いる場合の負担

特別寄与料は、療養看護等により被相続人の財産の維持・増加に貢献した被相続人以外の親族が、相続人対して、寄与に応じた金銭を請求することができる権利です。

簡単に言うと、例えば、被相続人の介護を行ってきた「長男の妻」が、遺産を相続した相続人に、「わたしがずっと介護をしてきたので遺産をその分少しくださいね」という権利です。

特別寄与料は、相続人に対して請求するのですが、相続人が複数人いる場合には、法律の規定上、各相続人が相続分に応じて負担するものとなっています。

 

民法1050条第5項
相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

 

例えば、「長男の妻」に特別寄与料として100万円が認められ、請求すべき相続人が次男と三男の2人のみ(長男等の他の相続人は既に他界)だとします。次男と三男が法定相続分通り、それぞれ1/2ずつの遺産を相続している場合には、次男に50万円、三男に50万円請求できるということになります。

仮に、上の例で、遺言により次男の相続分はないものと定められていた場合には、三男が100%遺産を相続することになるので、三男に特別寄与料を100万円請求することになります。

 

遺留分侵害額請求権を行使した相続人の負担

特別寄与料は、相続人が支払うものですが、相続人が複数人いる場合には、その相続分に応じた額をそれぞれが負担します。ですので、遺言等により、相続分がないものとされた相続人は特別寄与料の負担はありません。

では、遺言等により相続分はないものとされたが、遺留分侵害額請求権を行使をした相続人は、遺留分という範囲において、遺産を取得するため、その場合には、特別寄与料を負担するのでしょうか。裁判で争われたのは、まさにこの点になります。

最高裁の決定によりますと、「遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しない」と判示されました。

その理由として、各相続人の負担割合は、「相続人間の公平に配慮しつつ、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を防止する観点から、相続人の構成、遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等によることとしたものと解される。このような同項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情によって、上記負担割合が法定相続分等から修正されるものではないというべきである。」としています。

簡単に言うと、『相続分』に従って負担するという基準が、明確で分りやすく、相続人間の公平にも配慮されている。もし、『遺留分侵害額請求権を行使した場合には、遺留分で算定する』等、その都度負担基準を修正することを認めると、特別寄与料をめぐる紛争が複雑かつ長期になってしまうおそれがあるので、相続分以外を基準にしませんよ、ということです。

最高裁決定詳細
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92453

 

 

おわりに

今回のコラムでは、特別寄与料について基本をおさらいしつつ、「遺留分侵害額請求権を行使した相続人が特別寄与料を負担するのか否か」について、最高裁の判例をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。特別寄与料と遺留分が複雑に絡む難解な事例ではありますが、特別寄与料という比較的新しい制度についての裁判例でしたので、ご紹介いたしました。

相続に関する制度が複雑に絡むと、一気に難易度が高まります。複数の制度が複雑に絡む相続の問題については、専門家に相談することをオススメします。

当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。相談は、初回無料ですので、相続についてわからないことや、お悩みのある方は、お気軽にご相談ください。