第158回相続コラム 葬儀費用を相続財産から支出しても相続放棄はできるのか?

相続コラム

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第158回相続コラム 葬儀費用を相続財産から支出しても相続放棄はできるのか?

第158回相続コラム 葬儀費用を相続財産から支出しても相続放棄はできるのか?

葬儀費用は、最近では家族葬などの比較的小規模な葬儀が浸透しつつあるとはいえ、少なくない額が必要になるのが一般的です。葬儀費用を相続財産から支払う際に、相続放棄ができなくなるのではないかと心配になる方もいるではないでしょうか。今回のコラムでは、葬儀費用を相続財産から支出した際に、相続放棄ができるのかについて解説したいと思います。

 

相続放棄と単純承認

相続放棄とは、遺産に対する相続権の一切を放棄する制度をいい、主に借金などの負債を相続したくない場合に利用されます。

相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことになるのですが、「借金などのマイナスの財産だけ相続しない」という選択はできません。

そのため、「相続財産に手をつけたら(プラスの財産に手をつけたら)、相続放棄はできなくなる」という制度が法律上定められており、これを単純承認といいます。

 

葬儀費用と単純承認

相続財産に手をつけてしまうと、法律上、単純承認があったとみなされ、相続放棄ができなくなってしまうのが原則です。

しかし、裁判例によると、一定の場合には、例外的に、相続財産から葬儀費用を支出したとしても、単純承認にはあたらず、相続放棄も可能としています。

大阪高等裁判所 平成14年7月3日決定
葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果と言わざるをえないものである。したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民921条1号)には当たらないというべきである。

ただし、故人の生前の身分や社会的地位にそぐわない豪華な葬儀を行った場合には、社会的儀式として必要な範囲を超えているとして、相続放棄が認められなくなる可能性がありますので注意が必要です。

また、故人の遺産から葬儀費用を支払った場合には、葬儀費用の明細書や領収書などは、後に適切な支出であったことの証明に必要となるため、大切に保管しておきましょう。

 

まとめ
・常識的な範囲の一般的な葬儀費用を相続財産から支出しても単純承認にはあたらず、相続放棄が可能。
・分不相応のあまりに高額な葬儀費用を相続財産から支出すると、相続放棄ができなくなる危険性がある。
・葬儀費用の明細書や領収書などは大切に保管する。

 

香典は相続財産を構成しないため支出しても問題ない

現在の日本では、通常の葬儀の際には、香典として金銭を霊前に供えることが一般的です。

香典の法律的解釈としては、故人の葬儀に関する費用に充当することを目的として、葬儀の主宰者である喪主に対して渡される一種の贈与と考えられているため、香典は相続財産として扱われないのが一般的です。

そのため、香典を葬儀の費用として充てたとしても、相続財産を使用したことにはなりませんので、相続放棄の可否には影響しません。

 

迷ったら専門家に相談

裁判例からすると、常識的範囲の葬儀費用であれば、相続財産から支出しても、相続放棄は可能とされていますが、実際、どの範囲まで許容されるのかについては不明瞭な部分もあるため、被相続人に多額の負債があり、相続放棄を視野に入れている場合には、可能であれば相続財産以外から葬儀費用を捻出するか、最低限の葬儀に留めるのが無難といえます。

許容される葬儀費用の範囲に悩んだり、相続放棄について悩んだ場合には、専門家に相談することをおすすめします。相続放棄自体についても、複雑な手続きや放棄ができる期間制限があるため、専門家のサポートがあると安心できます。

当相談所でも、相続や遺言に関する様々な相談を初回無料にて受けておりますので、相続に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。