第314回相続コラム 遺言書で全財産を1人に相続させる方法とは?書き方やリスクも解説
近年の終活ブームの影響により、生前にしっかりと遺言書を作成される方も少なくありません。遺言書を作成する際に、「特定の者に全財産を相続させる遺言書を作成することはできるのか?」、「そのような遺言書を作成してもトラブルにならないか?」と不安に思う方もいらっしゃるかと思います。
今回のコラムでは、遺言書で特定の誰か一人に全財産を相続させることは可能なのか、その場合、どのようなリスクや注意点があるのか、具体的な書き方や法律上のポイントも含めて解説したいと思います。
遺言書で全財産を1人に相続させることは可能か?遺言書の基本知識と概要
遺言書を作成することで、全財産を特定の一人に相続させることは法律上可能です。特定の者だけに遺産を相続させたからといって、そのことを理由に遺言書が無効になるようなことはありません。
ただし、他の相続人がいる場合には、「遺留分」という最低限の取り分が法律で保障されているため、遺言書の内容がその権利を侵害していないか注意が必要です。
また、遺言書の形式や内容に不備があると無効になるリスクもあるため、遺言書に関する正しい知識が重要です。
正しい遺言書を作成することで、被相続人の意思を明確に伝え、相続トラブルを未然に防ぐことができます。
遺言書とは?遺産相続における役割と重要性を解説
遺言書とは、被相続人が自分の死後に財産をどのように分配するかを指定するための法的文書です。
遺言書があることで、相続人同士の争いを防ぎ、被相続人の意思を最大限に尊重した相続が実現できます。
遺言書には、いくつか種類がありますが、一般的に用いられるのは自筆証書遺言または公正証書遺言のどちらかになります。それぞれ法律で定められた形式に従って作成する必要があります。
相続人が1人であり、その相続人に全ての遺産を相続させたい場合には、特別の理由がない限り、遺言書を作成する必要はありません。相続人が1人であれば、自動的にその相続人が全ての遺産を相続することになるからです。
相続人が複数いる場合に特定の相続人一人に相続させるケースや、相続人以外の者に遺産を譲るケースでは、遺言書の作成が望ましいと考えられます。
遺言書で全財産を1人に相続させる理由
全財産を一人に相続させる遺言書を作成する理由は、遺言書を作成される方によって様々です。
よくある作成理由を紹介しますと以下のようなものが挙げられます。
内縁関係の配偶者がいる場合
いわゆる事実婚の夫婦には、互いの遺産について相続権がありません。内縁関係の配偶者がいる場合に、その者に遺産をのこすためには遺言書を作成する必要があります。相続人以外の者に遺産を譲る場合には、基本的に遺言書の作成が必須となります。
子どもがいない夫婦の場合
夫婦間に子どもがいないケースで夫が亡くなった場合、その相続人は、配偶者である妻と、夫の両親になります。仮に両親が既に他界している場合には、妻と夫の兄弟姉妹が相続人となります。そうすると、妻は夫の遺産を、夫の両親または兄弟姉妹と分け合う形になってしまいます。夫名義の自宅に一緒に住んでいるようなケースで、その自宅を遺産として分け合うと、最悪、住む家を失う危険性があります。
「一人残された配偶者が生活に困らないように、遺産を全てのこしてあげたい」という場合には、遺言書を作成する必要があります。
子どもがいる夫婦であっても、「子は既に独り立ちしているため、残された配偶者の老後のために、配偶者のみに遺産を相続させたい」というケースでは遺言書が利用されます。
特定の相続人に遺産を集中させたい場合
他の相続人には既に十分な援助を行っている場合や、不仲であったり信用できない相続人がいる場合に、特定の相続人一人に遺産を相続させるというケースも少なくありません。
遺言がない場合には、遺産は法定相続分に従った割合で分配されるため、特定の誰かに遺産を集中させたい場合には、遺言書の作成が必要となります。
他にも、家業を継がせるため、または相続手続きを簡易にするために、特定の相続人に遺産を集中させるケースもあります。
生前に遺言書を作成するメリット
遺言書を作成するメリットとして、法定相続分にとらわれない自由な配分で遺産を相続させることができるということが挙げられます。後述する遺留分には配慮する必要がありますが、基本的には、遺言者の自由に遺産の配分を決めることができます。相続人以外の者に遺産を譲ることも可能です。
また、きちんとした遺言書があると、面倒な遺産分割協議書の作成の手間を省くことができますので、相続手続きをスムーズに進めることも可能となります。
遺言書で全財産を1人に相続させる方法と書き方・文例
遺言が、正式な「遺言」として認められるためには、法律で定められた条件=要件を満たす必要があります。自筆証書遺言や公正証書遺言など、遺言書の種類ごとに必要な手続きや記載事項が異なりますので、各遺言に必要とされる法律上の要件を満たすことが重要です。
また、遺言には「誰に」「どの財産を」「どのように」相続させるかを明確に記載し、誤解やトラブルを防ぐための工夫も必要です。
内容が不明確の場合、形式的には遺言の要件を満たし有効な遺言であったとしても、内容が無効と判断されるおそれもあります。また、内容が不明瞭な場合、その解釈をめぐって相続人間で無用のトラブルを発生させる危険性もあります。
遺言の法律上の要件
自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言を作成する際に必要とされる要件は、遺言者が、原則として遺言の全文、日付および氏名を自書し、それに印を押すことと定められています。
■原則として遺言の内容(全文)を自書する
■日付を自書する
■氏名を自書する
■印鑑を押す
公正証書遺言の要件
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に作成してもらう遺言のことをいいます。公正証書遺言の内容は、当然、遺言を作成しようとする遺言者が決めますが、実際に遺言を作成するのは公証人となります。
公正証書遺言の具体的な作成方法については、「第296回相続コラム 公正証書遺言を自分で作成するために~必要書類・費用・流れを解説」をご覧ください。
自筆証書遺言と公正証書遺言の選び方
自筆証書遺言は費用がかからず手軽ですが、形式不備や紛失・改ざんのリスクがあります。一方、公正証書遺言は公証人が作成し、原本が公証役場に保管されるため安全性が高いです。費用や手間、信頼性を比較し、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
なお、自筆証書遺言については、法務局での自筆証書遺言書保管制度を利用することで、保管上のリスクを軽減することが可能です。
遺言書で全財産を1人に相続させる文例と記載方法
遺言書には「誰に」「どの財産を」「どのように」相続させるのか、明確に記載する必要があります。
例えば、全財産を長男に全て相続させる場合には、「私の全財産を長男○○○○(生年月日:○年○月○日)に相続させる」と具体的に記載します。
遺産を譲る相手が相続人以外の者の場合には、「遺贈する」と記載します。
例えば、内縁の妻に遺産を全て譲り渡す場合には、「私の全財産を内縁の妻○○○○(生年月日:○年○月○日、住所:○○県○○市○○町○番○号)に遺贈する」と記載します。
自筆証書遺言の詳しい書き方は、「第297回相続コラム 遺言書(自筆証書遺言)の書き方について文例付きで解説」をご覧ください。文例・見本付きで解説しております。
付言事項を活用した想いの伝え方・協議トラブル回避策
遺言書には「付言事項」として、遺言者の想いや相続人へのメッセージを自由に記載できます。
例えば「他の相続人には生前に援助したため、全財産を○○に相続させる」など理由を明記することで、相続人の納得を得やすくなります。また、家族への感謝や今後の協力をお願いする言葉を添えることで、トラブルの予防にもつながります。
付言事項に法的効力はありませんが、円満な相続のために有効な手段となります。
遺言書で全財産を1人に相続させる場合の注意点
遺留分との関係に注意
遺言は、ご自身の最終意思として自由に内容を決めることができるのが原則です。そのため、たとえ遺留分を一切考慮していない内容であっても、遺言としては法律上有効です。
しかし、遺産には、残されたご家族の生活保障という側面もあるため、民法では一定の法定相続人に対し「遺留分」として最低限の取り分を保障しています。
この遺留分が侵害されている場合、侵害された相続人は、遺産を取得した他の相続人などに対して「遺留分侵害額請求」を行い、金銭での支払いを求めることができます。特に、全財産を一人に相続させた場合、他の相続人との間で遺留分をめぐる争いに発展する可能性があるため、慎重な検討が必要です。
また、実務上の注意点として、遺留分侵害額請求は金銭での支払いを原則とするため、財産の大半が不動産など換金性の低い資産で構成されていると、相続人が請求に対応できず、現金化を迫られたり、紛争の長期化につながるおそれがあります。
そのため、遺言によって特定の相続人に全財産を相続させる場合には、請求に備えて現金や換価性の高い資産を残す、生命保険等を活用する、または遺留分に配慮した分配設計を行う、といった対策を講じておくことが重要です。
さらに、遺留分を侵害する事情について相続人に理解を得やすくするため、遺言書の付言事項に「他の相続人には生前に支援をしてきた」「配偶者の生活保障を優先した」などの背景や想いを添えておくことも、争いを未然に防ぐ有効な手段となります。
おわりに
今回のコラムでは、遺言書で特定の誰か一人に全財産を相続させることは可能なのか、その場合、どのようなリスクや注意点があるのか、具体的な書き方や法律上のポイントも含めて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
遺言書によって、特定の誰か一人に全財産を相続させることは可能です。遺言書を作成する際には、法律で定める要件を満たし、内容を明確に記載する必要があります。
また、特定の誰か一人に全財産を相続させる場合には、他の相続人の遺留分に配慮することが大切となります。作成した遺言書が争いの火種とならないように、専門家のサポートを受けることも重要です。
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