第296回相続コラム 公正証書遺言を自分で作成するために~必要書類・費用・流れを解説
近年の終活ブーム等の影響により、「遺言書を作成したい」という方が増えておりますが、どうせ作るならしっかりとした遺言書として、公正証書遺言を作成したいという方も少なくないのではないでしょうか。自筆証書遺言は、極端な話、紙とペンと印鑑があれば、すぐにでも作成できますが、公正証書遺言の場合には、公証役場で公証人に作成を依頼する都合上、作成のハードルは高くなります。今回のコラムでは、公正証書遺言を自分で作成したいという方のために、公正証書遺言の概略を解説するとともに、公正証書遺言を作成するのに必要となる書類や費用、作成の流れについて解説したいと思います。
公正証書遺言について
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に作成してもらう遺言のことをいいます。公正証書遺言の内容は、当然、遺言を作成しようとする遺言者が決めますが、実際に遺言を作成するのは公証人となります。
公正証書遺言は、法務省より任命された公証人が作成する公文書になるため非常に強い法的効力があるのが特長となります。
公正証書遺言のメリット・デメリット
公正証書を作成する公証人には、多年、裁判官、検察官または弁護士の経験を有する法曹資格者や、多年、法律事務に携わり、法曹資格者に準ずる学識経験を有する者が任命されます。そのため、法律的にしっかりと整理された内容の遺言書が作成されますし、方式の不備により遺言が無効になるということも基本的にありません。
また、作成された遺言書は公証役場で保管されるため、紛失したり、改ざんされる危険性もありませんので、安全確実な遺言方法と言えます。
さらに、公正証書遺言は、家庭裁判所での検認手続を経る必要がないので、相続の開始後、速やかに遺言の内容を実現することができます。
検認ついて詳しい解説は、「第49回相続コラム 知らないと罰せられることも!?遺言の検認」をご覧ください。
公正証書遺言には上記のようなメリットがある反面、公正証書遺言は、公証人に作成を依頼する形となるため、必要書類を用意したり、手数料を支払う必要があります。
公正証書遺言の必要書類
公正証書遺言を作成するのに必要となる書類は、遺言者の財産の内容等によっても異なりますが、一般的には、下記のような書類が必要となります。
遺言者本人の本人確認資料
遺言者本人の本人確認資料として、マイナンバーカードや運転免許証等の顔写真入りの公的機関の発行した証明書または印鑑登録証明書が必要となります。
遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本が必要となります。甥や姪など本人の戸籍謄本だけでは、遺言者との続柄が判別できない場合には、別途、続柄がわかる戸籍謄本も収集する必要があります。
財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票等
財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の名前・住所がわかるように住民票等が必要となります。法人に遺贈する場合には、その法人の登記事項証明書または代表者事項証明書が必要となります。
財産に不動産がある場合
遺言の対象となる財産に不動産がある場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)が必要となります。また、固定資産評価証明書又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書も必要となります。
財産に預貯金がある場合
遺言の対象となる財産に預貯金がある場合には、その通帳(コピーも可)が必要となるケースがあります。
公正証書遺言の手数料
作成手数料
公正証書遺言を作成する際には、公証人に手数料を支払う必要があります。その手数料は、下記の表のとおり、遺言の目的とする財産の価額に対応する形で定められています。
なお、この場合の「目的の価額」とは相続財産の総額でなく、各相続人・受遺者ごとに受け取る財産の価額のことを指します。そして、各相続人・受遺者ごとに算出された手数料を合計し、公証役場に支払う手数料額が求められます。また、手数料には、遺言加算というものがあり、全体の遺産の価額が1億円以下の場合は、上記の表によって算出された手数料に1万1000円が加算されます。
例えば、2,000万円の遺産があり、それを特定の相続人1人に相続させる旨の遺言の作成を依頼した場合、目的の価額が2,000万円なので、その手数料として23,000円と、全体の遺産の価額が1億円以下なので、遺言加算による11,000円を足した合計34,000円の手数料が必要となります。
2,000万円の遺産を、長男と次男に1,000万円ずつ相続させる旨の遺言の作成を依頼した場合には、長男の目的の価額1,000万円に対する手数料17,000円、次男の目的の価額1,000万円に対する手数料17,000円と遺言加算による11,000円を足した合計45,000円の手数料が必要となります。
公証人の出張
遺言者が病気やケガなどにより公証役場に赴くのが難しいような場合には、公証人の方から自宅や病院まで来てもらうことができます。
公証人に出張してもらい、公正証書遺言を作成する場合には、遺言の作成手数料が1.5倍となることがあります。また、公証人の日当や交通費も別途必要となります。
公正証書遺言と証人
公正証書遺言を作成する際には、作成に立ち会う証人が2人必要となります。この証人は、ご自身で手配することも可能ですが、推定相続人や受遺者などは証人にはなれませんので、ご自身で手配することが難しいケースも少なくありません。
そのような場合、公証役場で証人を紹介してもらうこともできますが、証人1人につき、6000円前後~1万数千円の費用がかかります。
公正証書遺言作成の流れ
1.遺言書の草案を作成する
遺言者が、誰に、何をどのように(価額や割合)譲るのか、遺言書の草案を作成します。自身の財産を正確に把握していない場合には、前提として、まずは自身の財産の調査も行います。
2.必要書類・資料等の収集
自身の財産に関する資料や公証人に提出する書類を収集します。後に証人も必要となるため、証人も手配可能であれば手配します。証人を手配できない(しない)場合には、公証役場で紹介してもらうことになります。
3.公証役場で公証人と打合せ
遺言書の草案を作成し、必要書類を収集した後は、公証役場で公証人と遺言を作成するための打合せをします。公証人との打合せには予約が必要となりますので、事前に公証役場に連絡をして、予約をとります。
上で解説したように、病気やケガ等により、公証役場に赴くことが難しい場合には、自宅や病院に出張してもらうことができますので、その場合には、予約の際に出張を希望する旨を伝えます。
打合せ時には、遺言書の草案と必要書類・資料を提出し、遺言書の内容について打合せを行います。
なお、打合せの回数は、遺言書の中身や公証人によっても異なり、1回で終わるケースもあれば、複数回の打合せが必要となる場合もあります。
4.原案の作成と修正
打合せの内容を踏まえて、公証人が遺言言の原案を作成します。作成された原案を遺言者が確認し、必要に応じて原案の修正を行います。
5.遺言公正証書の作成日時の決定
遺言書の原案が確定すると、次に、実際に、遺言公正証書を作成する日時を決めます。
6.遺言公正証書作成
遺言書作成日当日には、遺言者本人から公証人に対し、証人2名の前で、遺言の内容を改めて口頭で告げて、公証人は、それが判断能力を有する遺言者の真意であることを確認した上で、原案に基づきあらかじめ準備した遺言公正証書の原本を、遺言者および証人2名に読み聞かせ、または閲覧させて、遺言の内容に間違いがないことを確認します。
遺言の内容に間違いがない場合には、遺言者および証人2名が、遺言公正証書の原本に署名し、押印します。最後に、公証人も、遺言公正証書の原本に署名し、職印を押捺することによって、遺言公正証書が完成します。
おわりに
今回のコラムでは、公正証書遺言を自分で作成したいという方のために、公正証書遺言の概略を解説するとともに、公正証書遺言を作成するのに必要となる書類や費用、作成の流れについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
公正証書遺言をご自身で作成する際に注意して頂きたいのが、作成の流れの解説にあるように、草案はあくまでご自身で作成する必要があるという点です。公証人は、あくまで遺言者の方の要望に沿って、遺言書を作成することをその職務としていますので、どのように遺言書を作成すべきかについては、基本的に職務外となり、必ずしも適切なアドバイスをもらえるというわけではありません。
公証人によっては、一般的な遺言書作成のアドバイスをしてくれる場合もありますが、遺言者の方の家族構成や遺産構成に適した遺言書案について考え、事細かにアドバイスをくれるわけではありません。ですので、例えば、遺言者の方が、遺産を長男に全て譲りたいと希望されれば、その旨の遺言書を作成するのが、原則となります。その際に、長男以外に相続人がいる場合、後に遺留分を巡る争いが発生する危険性がある旨を教えてくれたり、それを防ぐためにどのように遺言書案を作成すべきか等を逐一教えてくれるわけではないということです。
「遺言内容についてアドバイスが欲しい」、「草案を作成して欲しい」、「書類収集や公証人との打合せに時間がとれないし、面倒だ」というような方は、相続の専門家に遺言書作成を依頼するのをおすすめします。
当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。相談は、初回無料ですので、公正証書遺言作成についてお困りの方はもちろん、相続についてわからないことや、お悩みのある方は、お気軽にご相談ください。
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