第105回相続コラム 最新の裁判例からみる遺言の日付

相続コラム

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第105回相続コラム 最新の裁判例からみる遺言の日付

第105回相続コラム 最新の裁判例からみる遺言の日付

自筆証書遺言に関する新しい裁判例が今月18日に出されました。今回は自筆証書遺言の日付について、最新の裁判例をもとに解説したいと思います。

 

自筆証書遺言の有効性が争われた事例

夫が自筆証書遺言を遺して亡くなりました。その遺言書では夫の内縁の妻とその子供に遺産が遺贈又は相続されることとなっていました。

夫は入院先の病院で○○年4月13日に遺言書を書き、遺言書に「○○年4月13日」と日付を記入しました。そして、退院後、夫は弁護士立会いの下で○○年5月10日に遺言書に押印しました。夫はその3日後、亡くなりました。

遺言書が完成したのは5月10日なのに夫が「4月13日」と記入したこの遺言書は無効にならないのでしょうか?

 

遺言が有効になるためには

自筆証書遺言には、主に以下の5つの要件があります。どれか一つが不十分でも遺言書全体が無効となってしまうリスクがあるので注意が必要です。

①全文自書
②氏名自書
③日付自書
④押印
⑤訂正等がある場合は、訂正印の押印と欄外への訂正内容、加えた文字、削除した文字等の明記。

今回の事案で問題となっているのは「日付」についてです。日付が記載されてはいるのですが、本来日付は遺言が成立した日、すなわち押印まで済ませて完成した日にすべきだったのに、遺言がまだ完成してない日の日付を記載している点です。

 

最高裁判所の判断

今月18日、このような事例について、最高裁判所は以下のように判示して、事件を高等裁判所に差戻しました。

「(遺言者が、)入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。」

ここで、最高裁判所の差し戻しというのは、事件がいったん高等裁判所で判決がでたものを、当事者が上訴し(上級の裁判所に不服を申し立てる)、最高裁判所が、当事者の意見を聞き入れ、下級裁判所に、再度の審理を命じることです。

最高裁判所は「必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。」として、上記のような判決を出しました。しかし、差し戻しということは、いったんは高等裁判所がこの遺言書を無効と判断していたわけで、裁判所や裁判官によって意見が分かれる、難しい事例だったと言うことができます。

これを読んだ方の中には「日付くらい多少いいじゃないか」と思う方もいるかもしれません。しかし、法律上の遺言書として認められる条件を多少欠いても遺言にしてよいということを認めすぎると、ちょっとしたメモ書きのようなものまで「これも遺言だ!」と主張されかねないので高等裁判所はあくまで法律の要件を重視した結論だったと考えられます。

「なるべく遺言を書いた人の最後の想いを尊重し遺言を有効にしたいという要請」と「なんでも遺言とされては困る。あくまで法律の条件を満たしたものだけを遺言として、どれが遺言でどれが遺言ではないのかを明確にしたいという要請」のぶつかり合いともいえるでしょう。

 

大事な遺言が無効とならないために

この判決はあくまで事例判決ですので、自筆証書遺言を作成する際は誤解や疑問等が生じないように、内容の自書から最後の押印まで全て同じ日に行うべきです。また完成した遺言書は封印する前に必ず専門家のチェックを受けることをお勧めします。

当事務所でも遺言書に関する相談を幅広くお受けしています。お気軽にご相談ください。