第297回相続コラム 遺言書(自筆証書遺言)の書き方について文例付きで解説

相続コラム

相続コラム

相続コラム

相続コラム

第297回相続コラム 遺言書(自筆証書遺言)の書き方について文例付きで解説

第297回相続コラム 遺言書(自筆証書遺言)の書き方について文例付きで解説

前回のコラムでは、公正証書遺言について作成の流れや必要書類について解説しました。公正証書遺言は、確実性の高い遺言として人気がありますが、作成する手間や費用がかかるというデメリットがあります。その点、自筆証書遺言は、紙とペンとハンコさえあれば、自宅で気軽に作成可能であり、また、2020年にスタートした自筆証書遺言書保管制度により、利便性が向上し、再評価されつつあります。今回のコラムでは、遺言書(自筆証書遺言)の書き方について、文例付きで、わかりやすく解説したいと思います。

 

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、文字通り遺言者が自筆で遺言書を作成する方式であり、紙とペンとハンコがあれば作成可能なため、最も利用しやすい遺言の方式といえます。通常、単に“遺言”というと、『自筆証書遺言』または前回のコラムで解説した『公正証書遺言』を指すのが一般的です。

遺言書の種類について詳しく知りたい方は、「第216回相続コラム 遺言の種類について特別方式も含めて解説」をご覧下さい。

自筆証書遺言は、紙とペンとハンコさえあれば、自宅で簡単に作成可能であり、また、公正証書遺言を作成する際に必要となる公証人の手数料のような特別な費用がかからないというメリットがあります。

通常、自筆証書遺言は、その遺言を執行する段階では、家庭裁判所において『検認』という手続きを経る必要があり、それが相続人の負担となっていたのですが、自筆証書遺言であっても、法務局が提供する自筆証書遺言書保管制度を利用することによって、検認を省くことが可能となりました。

検認について詳しい解説は「第49回相続コラム 知らないと罰せられることも!?遺言の検認」をご覧下さい。

 

遺言書(自筆証書遺言)の要件

遺言が、正式な「遺言」として認められるためには、法律で定められた条件=要件を満たす必要があります。

そして、自筆証書遺言の要件は、遺言者が、遺言の全文、日付及び氏名を自書し、それに印を押すことと定められています。

自筆証書遺言の要件
■遺言の内容(全文)を自書する
■日付を自書する
■氏名を自書する
■印鑑を押す

民法第960条
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

民法第968条1項
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

自筆証書遺言の要件で大事なポイントは、遺言書に記載する事項の全てを自書=手書きで作成するという点です。遺言者が自書する必要がありますので、パソコンで作成してプリントアウトするということはできませんし、代筆を頼むということもできません。

例えば、ある人がブログで、遺産を誰にどのように譲るか詳細に伝えていたとしても、ブログは、自筆証書遺言に必要とされる自書という要件を満たさないので、正式な遺言とは認められません。同様に、ビデオレターのようなもので、遺産の分配について話していたとしても、自書等の法律上の要件を満たさないので、正式な遺言とは認められません。

なお、ブログやビデオレターは、法律上「遺言」とは認められず、法的な効力は発生しませんが、そこで表現された故人の意思を尊重し、相続人がそれらの意思に自発的に従うことに問題はありません。ただし、ブログやビデオレターは、法律上、遺言とは認められないため、それを不動産の名義変更等の公的な手続きで利用することはできないので、別途、遺産分割協議書等を作成する必要があります。

 

遺言書(自筆証書遺言)の書き方

自筆証書遺言の要件は、上で解説した通り、下記のようになります。

自筆証書遺言の要件
■遺言の内容(全文)を自書する
■日付を自書する
■氏名を自書する
■印鑑を押す

上記要件さえ満たしていれば、法律上、それは自筆証書遺言として効力を発生します。上記要件を満たした、最もシンプルと思われる文例は下記のようになります。

 

①タイトル

タイトルについては、法律上、必須のものではありませんが、その文書が遺言書であることを明確にするために記載するのが一般的です。なお、タイトルを記載する場合にも、“自筆”証書遺言である以上、自書する必要があります。

 

②日付

日付の記載は必須です。日付は具体的な日付を特定できる必要があるため、「令和6年11月吉日」のような記載は無効となります。また、具体的な日付を特定できれば足りるため、「2024年11月18日」のように年を西暦で表記しても問題ありません。日付も自書する必要があります。

 

③氏名

誰の遺言なのか、氏名を自書することは必須です。なお、法律上は単に氏名を自書すべき旨を定めていますが、同姓同名の他者と区別するために、住所や生年月日も記載するのが一般的です。

 

④印鑑

印鑑を押すことも、法律上、必須とされています。なお、印鑑の種類は、法律上、特に定められていないため、認印でも問題はありませんが、間違いなく本人の意思に基く遺言であるということを明確にするために、実印を使用するのが望ましいと言えます。

自筆証書遺言の押印について詳しく知りたい方は「第119回相続コラム 自筆証書遺言の押印について徹底解説」をご覧下さい。

 

⑤本文

誰に何を相続させるのか、遺言の内容を記載(自書)します。この文例では、妻の経堂花子さんに全財産を相続させる内容となっています。相続人を記載する際には、氏名とともに、その者の生年月日を記載し、具体的に特定するのが一般的です。

経堂太郎さんの妻は、現行の日本の法律では、1人しか存在しえないため、単に「妻に」と記載することでも十分と思われますが、仮に、経堂太郎さんが遺言作成後、離婚し、別の方と再婚した場合には、「妻」というのは、遺言作成時点の妻を指すのか、遺言の効力が発生した時点(経堂太郎さんの死亡時)の妻なのか不明となってしまいます。また、現実には存在しないとは思いますが、仮に経堂太郎さんが、経堂花子さんと離婚し、その後、同姓同名の別の経堂花子さんと再婚した場合に、単に名前だけの表記では、どちらの経堂花子さんを指すのか不明となってしまうので、氏名には生年月日を併記するのが通常です。

 

遺言書で財産を特定する書き方

上で紹介した文例は、妻に全財産を相続させる内容の遺言なため、具体的な財産の特定はしていませんでした。

下の文例では、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言書となっています。

 

①不動産の特定

不動産を相続させる場合には、遺言記載の不動産がどの不動産を指すのか明確に特定するために、文例のような情報を記載するのが一般的です。土地についての『地目』や建物の『構造』や『床面積』等は、普段意識していない情報かもしれませんが、不動産登記事項証明書等を法務局で取得することで確認することが可能です。

実際に、遺言が執行される時点においては、遺言書をもとに不動産の名義変更の手続きを法務局で行う必要があるところ、登記事項証明書の記載内容と遺言書の記載内容が正確に一致していると手続きがスムーズになりますので、登記事項証明書の記載をしっかりと確認し、正確に不動産を特定することが重要となります。

②銀行預金の特定

銀行預金を相続させる場合にも、その預金が具体的にどの預金を指すのか特定する必要がありますので、銀行名、支店名、預金の種類、口座番号を記載するのが一般的です。

なお、不動産を特定するための情報も銀行預金を特定するための情報も、遺言の内容にあたるため、全て自書するのが原則となります。

 

③その他の財産

遺言者が所有する全ての財産を余すことなく遺言書に記載するのは現実的ではなく、また、遺言書に指定のない財産についてのみ別途遺産分割協議を行うのは相続人にとっても手間となるため、指定のない財産をどうするのかについて記載しています。

 

自書の例外、財産目録

自筆証書遺言の要件として、全文を自書=手書することが要求されているため、遺言書をパソコンで作成するこも、代筆させることも法律上は認められません。

ただし、財産目録を作成する場合には、例外的に、パソコンで作成したり、通帳のコピー等を添付することが認められています。その場合にも、その目録や添付したコピー等の書面に、遺言者の署名・押印が必要となります。

目録を活用した文例は下記のようになります。

 

 

目録を利用することにより、遺言書本文がスッキリと分かりやすくなります。また、遺産の種類が多い場合に、その遺産を具体的に特定するための情報を全て自書するとなると、相当の労力が必要となるため、遺産が多い場合には、財産目録を利用することをおすすめします。

なお、遺言書が複数枚にわたる場合には、ホチキスなどで綴じ、用紙と用紙の間に契印を押すのが一般的です。

契印について詳しい解説は、遺産分割協議書の解説ではありますが、「第157回相続コラム 契印?両面印刷?製本テープ?意外と知らない複数枚の遺産分割協議書の綴じ方」を参考にして下さい。

また、遺言書に用いる用紙で迷った際には、「第102回相続コラム 意外と迷う!?遺言書を書く用紙について」をご覧下さい。

 

遺言書を作成する際の用紙や様式について

遺言書を作成する際の用紙や様式について、法律上、特別の定めはありませんので、必要な要件さえ満たしていれば、様式や用紙を問わず、法律上の効力が発生します。

ただし、自筆証書遺言書保管制度を利用し、法務局で遺言書を保管してもらう際には、その保管制度を利用するためのルールがありますので、遺言書保管制度を利用する予定の方は、そのルールに従って遺言書を作成する必要があります。

具体的には、下記のような様式やルールが定められています。

■用紙はA4サイズ
■用紙は片面のみ利用可能(裏面には記載しない)
■上側5mm、下側10mm、左側20mm、右側5mmの余白を確保する
■遺言書が複数枚になる場合には、通し番号をつける
■複数枚でも綴じ合わせない

遺言書保管制度を利用する際の様式や注意事項は下記参考サイトをご確認ください。

政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202009/1.html

法務省「遺言書の様式等についての注意事項」
https://www.moj.go.jp/MINJI/03.html

 

おわりに

今回のコラムでは、遺言書(自筆証書遺言)の書き方について、文例付きで、解説してみましたが、いかがだったでしょうか。自筆証書遺言は、特別な費用がかからず、自宅で手軽に作成できるため、「遺言書を書いてみたい」という方は、本コラムを参考に挑戦してみてはいかがでしょうか。

当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。相談は、初回無料ですので、遺言書作成についてお困りの方はもちろん、相続についてわからないことや、お悩みのある方は、お気軽にご相談ください。