第165回相続コラム 生前贈与する際に知っておきたい相続時精算課税制度とは
生前贈与する際に気になるのが贈与税。贈与税は相続税と比較して高額なため、生前贈与する際には、贈与税に注意する必要があります。今回のコラムでは、生前贈与する際に贈与税を免れる相続時精算課税制度について解説したいと思います。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、生前贈与により若い世代に資産を譲り渡しやすくし、経済を活性化させることを目的に定められた制度です。この制度を利用すると、2,500万円までの贈与について、贈与税がかからなくなります。
例えば、高齢のAさんには、多額の資産があり、自身の子であるBさんに資金援助をしたいと考えていたとします。仮にAさんが亡くなり、BさんがAさんの財産を相続すると、相続税がかかりますが、贈与税と比較すると、様々な控除もあり、安価な税額となります。しかし、生前に財産を贈与すると、相続税ではなく高額な贈与税がかかってしまい、Bさんが必要なときに必要な資金を援助することはできますが、結果的にBさんに残せる財産は、大きく目減りしてしまいます。
そのような結果を回避するための制度が、相続時精算課税制度になります。2,500万円までの贈与であれば、贈与税が非課税となるため、Bさんが必要なときに必要な資金を援助することができるようになります。
ただし、相続時精算課税制度を利用すると、贈与時に税金はかかりませんが、将来、贈与者が亡くなった際には、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、相続財産として、実際に残っていた遺産に合算されて相続税が計算されます。つまり、相続時精算課税制度は、税金の支払を免れる制度ではなく、税金の支払を相続時に先送りする制度と言えます。
単なる先送りとはいえ、財産を譲り受けるものにとっては、いつ発生するかわからない遺産相続よりも、マイホーム購入や子育てなどで、まとまったお金が必要な時期に、任意のタイミングで贈与を受けたいというニーズもあり、そのようなニーズには適した制度と言えます。
相続時精算課税制度の利用
適用対象者
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において、その適用を選択できます。
正確には、贈与者は、贈与をした年の1月1日において60歳以上、贈与を受ける受贈者は、贈与を受けた年の1月1日に20歳以上である必要があります。
相続時精算課税制度は、高齢の世代から、若い世代へ資産をスムーズに移転させ、経済を活性化させる目的の制度なため、上記のような年齢制限があります。また、基本的に、同制度は、一部相続を前倒しで発生させるような側面があるため、受贈者は、贈与者の直系卑属である推定相続人や孫に限定されています。
適用財産
贈与財産の種類、贈与回数に制限はありません。2,500万円の範囲であれば、複数年にわたって数回に分けて贈与してもいいし、贈与する財産の種類に制限もありません。
適用手続
この制度の適用を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に、受贈者(子又は孫)は、納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍の謄本などの一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出する必要があります。
相続時精算課税制度の適用を選択する際には専門家に相談
相続時精算課税制度は、便利な制度ではありますが、デメリットもあります。例えば、一般的に広く知られている暦年贈与による相続税対策が利用できなくなったり、不動産の節税対策としてよく利用されている「小規模宅地等の特例」が利用できなくなったりします。
相続時精算課税制度のメリット・デメリットについては、別のコラムで解説したいと思いますが、相続時精算課税制度の適用を選択する際には、一度、専門家に相談することをおすすめします。他の制度を利用した場合との比較や、納税のシミュレーションが必要になるためです。
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