第164回相続コラム 路線価の例外を認める基準は? 不動産の相続税をめぐる注目の裁判

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第164回相続コラム 路線価の例外を認める基準は? 不動産の相続税をめぐる注目の裁判

第164回相続コラム 路線価の例外を認める基準は? 不動産の相続税をめぐる注目の裁判

不動産の相続税を、どのように算定するのか、その評価基準について争う注目の裁判について、3月15日に最高裁で弁論が開かれ、4月19日に判決が下される予定です。裁判の結果によっては、現在広く知られている節税目的での不動産購入が、ケースによっては節税効果が見込めなくなることから、裁判の行方を気にされている方も少なくないと思われます。今回のコラムでは、同裁判の内容や争点を、あらためて整理し、解説したいと思います。

 

不動産を購入すると相続税の節約になるのはなぜか

現金一億円が遺産として残っていた場合、当然、その一億円を基準に相続税が計算されます。しかし、現金一億円で不動産を購入していた場合、相続発生時に、その不動産の価値をどのように評価するかによって、支払う相続税が変わってきます。つまり、その不動産の価値をどう評価するのか、その評価基準によって、支払う税金の額が変わってきます。

不動産の相続税を計算するにあたっては、通常、路線価というものを基準にして算定されます。この路線価は、毎年、国税庁によって発表されており、実際に取引される実勢価格よりも、2~3割ほど低くなるのが一般的です。

上の例ですと、一億円で購入した不動産が、そのままの価値を維持し、一億円で取引可能だとしても、路線価が8000万円とされていれば、8000万円を基準に相続税が算定されることになるため、差額の2000万円にかかる税金が節約できます。(正確には、税率も下がるため、その分も節税できます。)

まとめ
不動産を購入すると、相続税の節約になるのは、
●「路線価と実勢価格との間に隔たり」があり、
●「路線価は実勢価格よりも一般的に低い価格」になる
からです。

実際に不動産を購入して節税する際には、上記の他に、借入により負債を増やし、相続財産を少なくする対策も行われることが多くなります。今回の裁判でも、多額の借入により相続財産を減少させる対策がとられていました。

不動産購入による相続税対策について詳しくは
第133回相続コラム 相続対策に不動産購入が効果的な理由」はご覧下さい。

裁判の内容
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2022/jiangaiyou_02_283.pdf

 

路線価による算定の例外

不動産の相続税は、原則として国税庁が示す土地の評価額である路線価を基準に算定されます。しかし、国税庁は、路線価に基き評価した結果と実勢価格との差が大きく、そのまま路線価で評価することが「著しく不適当」な場合には、独自に再評価できるとの例外規定も設けています。

今回注目されている裁判は、路線価を基準に相続税を算定して納付した原告と、路線価で評価するのが「著しく不適当」として追徴課税を求めた国税当局との争いであり、判決ではどのような場合が「著しく不適当」として、路線価以外の評価基準を用いることができるのかが注目されています。

一般論ではありますが、法律の適用については、ある程度画一的に処理される方が望ましいという考え方があります。法律の適用を受ける一般市民としては、法律=ルールは、様々な判断・行動の指針ともなるべきものなので、自身の判断・行動の結果が予測できるのが望ましいという考え方です。

他方で、あらゆるケースで法律=ルールを厳格に画一的に適用すると、場合によってはかえって不合理な結果となることがあります。

今回のケースで言うと、原則的に不動産の相続税は路線価を基準に算定されるため、「自身の不動産についてもそのように法律が適用されるだろう」と判断して相続対策をした原告側と、今回のケースでは、路線価と評価額の差があまりに大きく、その結果、他の財産についても相続税の支払を免れる結果となったため、「著しく不適当」として、例外を適用した国税当局の争いという構図が見てとれます。

確かに、国税当局の主張ももっともなのですが、「著しく不適当」とは、どのような場合なのか、一般市民には判断が難しく、恣意的な賦課徴収ができてしまい、例外的な扱いを受ける側からすれば不平等な適用にも写ります。また、例外が適用される基準が不明瞭だと、その適用を恐れ、経済活動が萎縮してしまうおそれもあります。

最高裁の判断では、どのような場合が「著しく不適当」なのか、その判断基準が示されると予想されるところ、今後の不動産購入による節税対策の行方に大きく影響が出ると思われます。

4月19日に下される判決について注目していきたいと思います。