第316回相続コラム 内縁の妻(夫)に相続権はあるのか?保護されるケースと備えるべき対策
近年、婚姻届を提出せずに「事実婚」や「内縁関係」として生活するカップルが一定数存在しています。生活を共にし、経済的にも精神的にも支え合っている点では、戸籍上の夫婦と変わらない関係です。
しかし、相続という観点から見た場合、内縁関係と法律婚の間には大きな違いがあります。
今回のコラムでは、「内縁の妻(夫)に相続権はあるのか」について解説するとともに、内縁関係でも保護される可能性のあるケースや必要な備えについて解説したいと思います。
内縁関係とは
内縁関係とは、婚姻届を出していないものの、社会通念上は夫婦と同様の実態を持つ関係を言います。周囲から夫婦と認められている、同居して共同生活を営んでいる、といった点が要件とされています。
法律上、内縁関係は一部の場面では「婚姻に準じて」扱われます。たとえば、扶養義務が認められたり、住民票に「妻(未届)」と記載されたりする場合です。しかし、あくまで戸籍上の婚姻(法律婚)とは区別されるため、法律が認める権利には限界があります。その典型例が相続です。
相続における内縁の妻(夫)の立場
民法では、法定相続人として「配偶者」や「血族相続人(子や親、兄弟姉妹など)」が規定されています。ここでいう「配偶者」とは、あくまで戸籍上の婚姻をしている妻や夫を指します。
そのため、内縁の妻(夫)は、長年連れ添い、実質的に夫婦同様の生活をしていたとしても、法律上の相続人にはなれません。結果として、夫(妻)に先立たれた場合、財産を相続する権利は基本的に認められません。この点が「事実婚」と「法律婚」の決定的な違いです。
内縁の夫婦の子どもの相続権
内縁の夫婦間に子どもがいる場合、たとえ内縁関係であったとしても、その子は第一順位の相続人として相続権を得ることができます。
ただし、婚姻関係にない男女間に生まれた子どもは、非嫡出子と呼ばれ、父親の相続人となるためには認知という手続きが必要となります。なお、母親と子どもの間には、出生により、親子関係が当然に発生しますので、特別な手続きは不要となります。
対策を講じなくても保護される可能性がある場合
内縁の妻(夫)には相続権がないとはいえ、他の制度や裁判例等により、一定の保護が受けられるケースも存在します。
特別縁故者制度
相続人がいない場合に、家庭裁判所が、被相続人と特定の関係があった者、すなわち「特別縁故者」に対して、相続財産の一部を分与するという制度があります。これを特別縁故者制度と言います。
仮に、内縁関係の夫が亡くなり、その夫に相続人が全く存在しない場合には、家庭裁判所が「特別縁故者」として内縁の妻に財産の一部を分与する判断をすることがあります。たとえば、長年生活を共にし、被相続人である内縁の夫を扶養・介護していた場合などです。ただし、特別縁故者制度はあくまで「相続人がいない場合」に適用される制度なため、適用を受ける場面は限定的となります。
特別縁故者について詳しい解説は「第251回相続コラム 相続人ではないけど遺産を受け取ることのできる特別縁故者とは」をご覧ください。
賃借権の承継・援用(※)
夫名義で借りていた住居に内縁の妻が同居しており、夫が亡くなった場合、借地借家法や判例法理により、賃借権を承継・援用(※)することが可能な場合があります。これにより、夫の死後も住み慣れた家で暮らし続けられる可能性があります。
ただし、すべてのケースで認められるわけではなく、場合によっては賃借権の承継が否定されるケースもあります。
(※)援用とは、法令の規定や判例などを根拠に、特定の法的効果の自分への適用を主張することです。
少し専門的なお話になりますが、仮に亡くなった内縁の夫に相続人がいない場合には、借地借家法第36条により原則として賃借権が妻に承継されます。つまり、借地借家法第36条の適用を受けるケースでは、内縁の妻は元々夫と住んでいた住居に住み続けることが可能です。
他方で、亡くなった内縁の夫に相続人がいる場合には、賃借権は相続人に相続されることになります。そうすると、賃貸人からすると、賃借権のない内縁の妻を追い出すことができるようにも思われますが、「被相続人の死亡まで、内縁の妻は被相続人の賃借権を援用して居住できていたのだから、被相続人の死後も、相続人に承継された賃借権を援用して居住を継続できる」と判断した裁判例があります。
つまり、内縁の妻には、賃借権はありませんが、相続人が相続した「賃借権を援用」し、そこに住み続けることができる場合があるということです。
参考:最高裁判所判例集
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53963
遺族年金・死亡退職金・生命保険金
相続財産とは別に、遺族年金や死亡退職金、生命保険金などが内縁の妻(夫)に支給・給付される場合があります。特に生命保険金は受取人を「内縁の妻(夫)」に指定しておけば、婚姻関係の有無に関わらず、通常は受け取ることができます。これらは「相続」とは別の仕組みで支払われるため、重要な生活保障の手段になります。
内縁の妻(夫)を守るために必要な生前対策
上記のような制度による保護は限定的で、必ずしも十分とは言えません。大切なパートナーにしっかりと財産を残すためには、生前からの対策が欠かせません。
遺言書の作成
最も有効な方法は、被相続人が遺言書を作成しておくことです。「内縁の妻(夫)に財産を遺贈する」旨の遺言書を作成することで、相続人以外の内縁の妻(夫)にも財産を遺すことができます。
遺言書を作成する際には、公正証書遺言の形式にしておくと、形式の不備や紛失・改ざん等のリスクを軽減することができ、より確実性が増します。
『遺留分』には注意
遺言書を作成する方に相続人がいる場合には、『遺留分』に注意する必要があります。一定の相続人には遺留分と呼ばれる最低限の取得割合が法律上保障されています。遺言書の内容が遺留分を侵害していると、遺贈を受けた内縁の妻(夫)と相続人とで遺留分を巡る争いに発展する可能性があります。
遺留分と遺言書の関係について詳しい解説は「第143回相続コラム 遺言を書く際に気をつけるべき遺留分 遺言と遺留分の関係について」をご覧ください。
生前贈与や共有名義の活用
居住用不動産を夫婦で共有名義にしておいたり、生前に財産を贈与しておいたりすることも一つの手段です。相続開始後ではなく、生前から権利関係を整えておくことで、法的安定性が高まります。
おわりに
今回のコラムでは、「内縁の妻(夫)に相続権はあるのか」について解説するとともに、内縁関係でも保護される可能性のあるケースや必要な備えについて解説しましたが、いかがでしたか。
内縁の妻(夫)には、法律上の相続権は認められていません。しかし、特別縁故者制度や判例、年金・保険の仕組みを通じて一定の保護を受けられる可能性はあります。とはいえ、それらは限定的であり、必ずしも生活を保障できるものではありません。
しっかりとパートナーの生活を守るためには、遺言の作成や生前贈与など、事前の備えが不可欠です。内縁関係であっても、大切な人を安心して支えるために、早めに相続の専門家へ相談し、最適な方法を検討していきましょう。
当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。 相談は初回無料ですので、「大切なパートナーをしっかりと守りたい」とお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。専門家として、お客様のご事情に合わせた最適な方法をご提案いたします。
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