第311回相続コラム 相談事例から解説する疎遠なご家族が亡くなった際の遺産整理

ご家族の方が亡くなり、ご自身が相続人となった場合には、相続に関する様々な手続き、遺産整理が必要となります。相続に関する手続きは多岐にわたるため、相続人の負担となることが少なくありません。特に疎遠であったご家族や遠方に住んでいる方が亡くなった場合には、その負担も大きくなる傾向にあります。
今回のコラムでは、実際に当事務所でお受けした相談事例を元に、疎遠なご家族が亡くなった際の遺産整理について、注意点や手続きを進める際のポイント等を解説したいと思います。
なお、相談事例の内容については、プライバシーに配慮し、わかりやすく解説するため、内容を一部改変しています。
相談事例概要
相談者Xさんは、都内に住む60代男性の方です。一月ほど前に、Xさんの兄Aさんが世田谷区の自宅で亡くなっていることが発見され、警察から連絡がきました。Aさんは独身で子どももなく、両親も既に他界していたので、Aさんの葬儀はXさんが執り行いました。
その後、遺産整理を始めようとしたのですが、「何から手をつけていいのか分からない」、「Aとは何年も顔を合わせていないので、Aのことはほとんどわからない」という状態でしたので、当事務所に相談に来られた事例になります。
疎遠のご家族が亡くなった際に確認すべきこと
相続人の調査
当然のことではありますが、相続の手続きは、亡くなった方の相続人が行います。
しかし、相続人が誰であるかは必ずしも明らかではなく、しっかり相続人を調査すると、「実は隠し子がいた」、「腹違いの兄弟がいた」というようなケースも珍しくありません。
特に、疎遠だったご家族が亡くなった際には、「知らない間に結婚していた」、「認知した子や養子がいた」等、ご自身の認識と実際が食い違うケースが多々ありますので、本当に他に相続人がいないのか、しっかり調査する必要があります。
後に、他に相続人がいることが判明した場合には、手続きが無効となったり、やり直しが必要になる場合がありますので、相続手続きを進める前に、相続人の調査をすることが大切となります。
相続財産の調査
相続の手続きを進める前提として、どのような財産がどのくらいあるのか、相続財産を調査する必要があります。
相続財産の価額によっては相続税を納付する必要がありますし、遺産に不動産が含まれる場合には、相続登記を申請する必要がありますので、遺産の種類や額を特定することは重要です。
また、借金等の負債も相続財産に含まれるため、その調査も重要です。近しい家族であっても「実は多額の借金があった」というケースも少なくありませんので、経済状況が不明な疎遠な家族が亡くなった際には特に慎重に調査する必要があります。
■相続発生時には、相続人や相続財産の調査が必要。
■特に疎遠だった家族が亡くなった際には、他に相続人がいたり、多額の借金を抱えていたりする場合があるので注意が必要。
今回の相談事例の調査結果
今回の相談事例では、相談者Xさん以外に相続人はおらず、また、Aさんに借金等の負債はありませんでした。
ただし、Aさんは、自宅およびその敷地である不動産を所有しており、また、複数の銀行口座に加え、証券口座も複数開設していたため、行うべき相続手続きが多数あることが判明しました。
相続放棄という選択
今回の事例では、Aさんには借金等の負債がなく、プラスの遺産が多かったため、Xさんは、そのまま相続する運びとなりましたが、仮に、Aさんに多額の借金等が見つかった場合には、相続放棄を検討することになります。
相続放棄を選択すると、プラスの遺産もマイナスの遺産も、全て相続しないことになりますので、相続財産の総額がマイナスになる場合には、検討すべき選択肢となります。また、仮に、他に相続人がおり、面倒な相続手続きや遺産分割に加わりたくないという場合にも、相続放棄は有効な手段のひとつとなります。
ただし、相続放棄を行うためには、一定期間内に家庭裁判所に申請する必要があるため、注意が必要となります。
相続放棄の基本については「第16回相続コラム 相続放棄の手続き」をご覧ください。
相続放棄の必要書類について詳しい解説は「第293回相続コラム 相続放棄する際の必要書類について解説」をご覧ください。
多岐にわたる相続手続き
人が亡くなり、相続が発生すると、様々な手続きを行う必要があります。今回の相談事例において、相続財産の調査の結果、Xさんが行うべき主な相続手続きは以下のようなものとなりました。
①自宅およびその敷地の名義変更(相続登記)
②複数の銀行口座の解約
③複数の証券口座の解約
④生命保険金の受け取り
⑤年金受給停止の手続き
⑥健康保険の資格喪失の手続き
⑦クレジットカードの解約
⑧各種サブスクの解約
⑨スマホの解約
⑩インターネットの解約
⑪自宅の清掃・遺品整理
上記、相続に関する手続きのうち、特に手続きの難易度が高いのが①不動産の名義変更、相続登記です。
不動産という重要な財産について、その名義は法務局の登記簿という公の記録簿で管理されており、名義変更等の手続きについても、法律上、厳格なルールが定められているためです。
相続した不動産の名義変更のことを、専門用語で「相続登記」と言いますが、相続登記の申請を相続人自らが行うことも可能ですが、登記の専門家である司法書士に代行を依頼するのが一般的です。
また、相続登記ほどではないですが、②銀行口座の解約や③証券口座の解約の手続きも、収集すべき書類が多く、手間もかかるため、相続人にとって負担となるケースが少なくありません。
今回の相談事例では、手続き的難易度が高く、手間のかかる①~③の手続きを当事務所に代行を依頼し、④~⑪の手続きを相談者Xさんが自ら行うことになりました。
相続登記義務化
2024年4月1日の改正法施行により、相続登記の申請は義務となっています。法律で定められた期間内に登記を申請しないと、罰則の適用があり、10万円以下の過料に処せられることになります。
難しい・面倒な手続きを外注するという選択
相続の際に、必要となる手続きは多岐にわたり、その中には手間のかかる手続きや、難易度の高い手続きが含まれることがあります。
特に、相続税の申告や相続登記の申請は、専門的知識が要求され、難易度が高いため、税理士や司法書士に依頼するのが通常です。その他の手続きについても、負担軽減のため、代行可能な専門家や業者に依頼する方も少なくありません。
また、当事務所のように様々な手続きを丸ごと代行するサービスを提供している専門家に、面倒な手続きを一括して依頼することで、相続人の負担を大きく軽減できます。
家族を亡くしたという精神的負担が多い中、面倒で複雑な手続きを行うのは、精神的にも肉体的にも疲弊してしまうため、上手に専門家の手を借りて、その負担軽減を図ることをオススメします。
おわりに
今回のコラムでは、実際に当事務所でお受けした相談事例を元に、疎遠なご家族が亡くなった際の遺産整理について、注意点や手続きを進める際のポイント等を解説しましたが、いかがだったでしょうか。
相続全般にも当てはまることですが、疎遠なご家族が亡くなった際には、しっかりと相続人調査・相続財産調査を行うことが重要となります。また、相続手続きは多岐にわたり、複雑で面倒なものも少なくないため、上手に専門家の手を借りて、負担を軽減することも大切です。
当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。相談は、初回無料ですので、相続についてわからないことや、お悩みのある方は、お気軽にご相談ください。
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