第293回相続コラム 相続放棄する際の必要書類について解説
相続が発生したが、故人に多額の借金があった場合や、遺産相続で揉めたくないという場合に利用されるのが相続放棄。相続放棄を選択すると、はじめから相続人ではなかったことになるため、借金を背負うことがなくなり、また、遺産を巡る争いから解放されることになりますが、家庭裁判所という普段馴染みの薄い役所で手続きを行う必要があります。今回のコラムでは、相続放棄をする際の必要書類について解説したいと思います。
相続放棄の基本
相続が発生した際には、被相続人(故人)が有していた一切の権利・義務を相続人が引き継ぐのが原則となります。相続を拒む場合には、相続放棄という手段がありますが、相続放棄をするためには、家庭裁判所での手続きが必要となりますし、また、相続放棄を選択するためには、自己のために相続の開始があったことを知った時から三ヶ月以内に、その手続きを行う必要があります。
■相続放棄をするためには家庭裁判所での手続きが必要
■相続放棄の手続きは相続の開始を知った時から三ヶ月以内に行う必要がある
民法938条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
民法915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
相続放棄の必要書類【全員共通】
相続放棄の手続きを行う際に必要となる書類は、相続放棄をしようとする人(申述人)と故人(被相続人)との続柄によって異なりますが、下記の書類は、全員が必ず提出する書類となります。
1.相続放棄申述書
2.相続放棄をする申述人の戸籍謄本
3.被相続人の住民票除票または戸籍の附票
1.相続放棄申述書
法律上、相続放棄を行う際には、家庭裁判所において「申述」しなければならないと定められていることから、「相続放棄申述書」の提出が必要となります。「相続放棄申述書」とは、簡単に言うと、相続放棄の申込書のようなものと考えるとわかりやすいかと思います。
相続放棄申述書には、定まった書式がありますので、家庭裁判所ないしホームページより書式をダウンロードし、記入例に従って必要事項を記入し、提出します。
裁判所ホームページ
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
2.相続放棄をする申述人の戸籍謄本
相続放棄をする申述人と被相続人との続柄を示すために申述人の戸籍謄本の提出が必要となります。
3.被相続人の住民票除票または戸籍の附票
家庭裁判所は全国各地にありますが、実は、どこの家庭裁判所でも手続きができるというわけではありません。裁判所には管轄というものが定められていますので、管轄の裁判所にて手続きを行う必要があります。
相続放棄の管轄については、法律上、「相続が開始した地を管轄する家庭裁判所」と定められているため、相続放棄の手続きを行おうとしている家庭裁判所に管轄権が本当にあるのか確認するために、被相続人の住民票除票または戸籍の附票の提出が必要となります。
相続放棄を行う家庭裁判所の管轄について詳しい解説は、「第289回相続コラム 相続放棄の手続きはどこでするの?被相続人の住所が不明な場合も解説」をご覧ください。
続柄によって異なる必要書類
当たり前のことではありますが、相続放棄をしようとする人は、故人の相続人でなければなりません。相続人ではない人は、相続放棄はできないからです。
家庭裁判所という公の機関で手続きを行う以上、その当たり前を確認する必要がありますので、故人との続柄によって以下のような書類の提出が必要となります。
故人の配偶者や子どもが相続放棄する場合
■被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本や除籍謄本
配偶者は常に相続人となりますので、被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本や除籍謄本の提出のみで足ります。また、故人の子は第一順位の相続人となりますので、配偶者と同様に被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本や除籍謄本の提出のみで足ります。
孫やひ孫などの代襲相続人が相続放棄する場合
■被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本や除籍謄本
■被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍謄本や除籍謄本
故人の孫やひ孫などの代襲相続人が相続人となるためには、本来の相続人が亡くなっていることが前提となるため、本来の相続人である被代襲者の死亡の記載のある戸籍謄本や除籍謄本の提出も必要となります。
父母や祖父母などの直系尊属が相続放棄する場合
■被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本や除籍謄本
■被相続人の子や孫が亡くなっている場合、その子や孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
父母や祖父母などの直系尊属は、法律上、第二順位の相続人ですので、第一順位の相続人が誰もいない場合にはじめて相続権を有します。また、被相続人の子が既に亡くなっている場合でも、その子に子がいた場合には、代襲相続により子の子が第一順位の相続人となりますので、故人の子にも子がいないということを確認する必要があります。
そのため、被相続人の戸籍を全て遡って子がいないことを確認し、また、既に亡くなっている子がいる場合には、その子にも子がいないことを確認しなければならないため、上記のような書類の提出が必要となります。
兄弟姉妹が相続放棄する場合
■被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本や除籍謄本
■被相続人の子や孫が亡くなっている場合、その子や孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
■被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本や除籍謄本
故人の兄弟姉妹は、法律上、第三順位の相続人となりますので、第一順位の相続人および第二順位の相続人が誰もいないということを確認するために上記のような書類の提出が必要となります。
なお、先順位の相続人が相続放棄によって相続人ではなくなっている場合、先順位の相続人よって提出済みとなっている書類があるはずであり、それらの提出済みの書類については再度提出する必要はありません。
おわりに
今回のコラムでは、相続放棄をする際の必要書類について解説しましたが、いかがだったでしょうか。相続の順位が後順位になればなるほど、先順位者がいないということを確認するための書類が増えるというのが今回のコラムの内容を理解するポイントです。後順位の相続人が間違いなく相続人であるということを確認するためには、先順位の相続人が一人もいないということを確認しなければならず、そのために集める戸籍謄本等が増えてしまうからです。
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