第151回相続コラム 遺産分割協議書で決められた「老親の面倒を見る」という約束が守られない場合の対処法
相続開始後、遺産分割協議書を作成し、各種手続きも完了し、ひと段落…とはいかないのが相続問題。遺産分割協議書を作成する際には、様々な取り決めがなされることになりますが、その取り決めが守られないといったトラブルが少なくありません。例えば、父親が亡くなり、長男が残された母親の扶養・介護をすることを条件に遺産を多く相続したにもかかわらず、母親の面倒を一切見ない、というようなケースです。今回のコラムでは、遺産分割協議書で決められた内容を守らない相続人がいる場合の対処法を解説したいと思います。
遺産分割協議をやり直すことは困難
一般的な契約に関しては、契約内容が守られない場合には、約束違反(債務不履行)を理由に、契約自体を解除し、契約をなかったことにし、全てを白紙に戻すことができます。
しかし、遺産分割協議については、その協議内容にもとづき、故人に関する様々な法律関係が決まるため、それを簡単に覆せるとなると、法律関係が著しく不安定となってしまうことから、原則として、遺産分割協議を、その内容の不履行を理由に解除することは認められません。
約束を守らないことを理由とする一方的な解除は認められませんが、相続人全員が同意し、新たに遺産分割協議をやり直し、合意が成立すれば、遺産分割協議をやり直すことは可能です。
しかし、最初の協議の内容を守らない相続人が新たな協議に合意するとは考えにくいため、事実上、一度成立した遺産分割協議を、協議の内容を守らない相続人がいることを理由にやり直すことは困難となります。
遺産分割協議のやり直しについて詳しくは、「第149回相続コラム 遺産分割協議のやり直しはできるのか?その方法や注意点を解説」をご覧ください。
遺産分割後の紛争調整の調停
遺産分割協議をやり直すことは難しいため、取り決めを守らない相続人がいる場合には、取り決めを守るように働きかけを行うしかありません。当事者同士の交渉で上手くいかない場合には、家庭裁判所に、遺産分割後の紛争調整の調停というものを申し立てることになります。
調停は、裁判とは異なり、調停委員という第三者の仲介のもとに当事者間の話し合いを行い解決を図るものです。第三者を介することによって感情的な対立を避け冷静な話し合いの場を設けるという趣旨の制度です。
調停での話し合いでも解決ができなかった場合には、最終的に、裁判で遺産分割協議書で定められた内容を実現するように訴えていくことになります。
ただ、裁判で請求し、実現できる内容には限界があるので注意が必要です。
例えば、老親の面倒を見るという約束した相続人に、裁判所が「老親の面倒を見ることを強制」することはできません。そのような場合には、老親の生活費・扶養料や介護等にかかる費用を支払わせることになります。ただし、仮に上記のような生活費や扶養料を支払わせる請求権を裁判によって勝ち取ったとしても、それが実際に支払われない場合には、別途、お金を支払わせるために扶養請求調停という手続きが必要になったり、非常に手間と時間がかかります。
生前対策や遺産分割協議の内容を専門家に相談
一度成立した遺産分割協議の内容を覆すのは困難であり、また、約束を守らない相続人に約束の実現を求めていくのは多くの時間と手間がかかります。約束の不履行から生じる不公平感から、様々な相続人間の争いに発展する危険性もあります。
そのようなトラブルを未然に防ぐために、遺産をそのまま渡すのではなく、家族信託を活用して扶養・介護等の実態に応じて財産を譲渡したり、遺産分割協議の内容を専門家に精査してもらうなどの対応が大切になります。
当事務所では、長年相続案件に携わってきた実績があり、相続人間の争いを防ぐための生前対策の相談や、遺産分割協議書の作成などを受け付けております。どうしたら残された家族が争わずに済むか、また老親の介護等の不安を解消するのに必要な相続対策は何かなど、相続に関する相談を初回無料にて行っておりますので、お気軽にご相談ください。
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