第315回相続コラム 相談事例から解説する「相続した実家の名義は、母親と子のどちらにすべきか」その判断基準

相続コラム

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第315回相続コラム 相談事例から解説する「相続した実家の名義は、母親と子のどちらにすべきか」その判断基準

第315回相続コラム 相談事例から解説する「相続した実家の名義は、母親と子のどちらにすべきか」その判断基準

「父親が亡くなり、その妻である母親と子が相続人となる」というケースは、相続の典型的なケースと言えます。そのようなケースでは、亡くなった父親名義の実家(及びその敷地)について、母親名義にするか子名義にするか、悩まれる方も少なくありません。

今回のコラムでは、よくある相談事例をもとに、典型的な相続のパターンにおける実家の名義は、母親と子のどちらにすべきか、判断する際のポイントや注意点等について解説したいと思います。

※本コラムの事例は、解説の便宜のために構成された架空の事例になります。実際の取り扱い事件とは異なります。

 

相談事例

事例の概要

相談者Xさんの父親は数ヶ月前に他界し、XさんとXさんの母親(故人の妻)が相続人となりました。

Xさんは既に自立しているため、特段生活に困るというようなことはありません。しかし、母親は高齢で、生活は父親の遺産頼みということもあり、遺産は全て母親に相続して欲しいと考えています。また、実家には、母親が住んでいるため、住み慣れた実家にそのまま住み続けて欲しいとも考えています。

そこで、Xさんは遺産の相続を辞退し、母親に全ての遺産を相続させる手続き、及び実家の名義を父親から母親へと変更する手続きを依頼しに司法書士事務所に相談に行かれたという事例になります。

相談事例のポイント

まず、前提として、そもそも相続を辞退することはできるのか、また、相続を辞退することができるとして、どのような手続きを採るべきかが問題となります。

次に、相続の辞退が可能だとしても、果たして、母親に遺産を全て相続させ、実家の名義も母親にすることに問題はないのでしょうか。

以下、それぞれについて、解説していきます。

 

相続の基本と相続の辞退

相続の辞退

人が亡くなると、自動的に法律によって相続が発生しますので、遺言等がなければ、被相続人が亡くなった瞬間に相続人は遺産を相続することになります。

ただ、相続が発生していると言っても、遺産分割協議をまだ行っていない段階では、誰がどの遺産をどのような割合で相続するのかは未確定であり、法定相続分という抽象的な割合で遺産を相続人間で共有している状態にすぎません。

ですので、具体的な相続の内容を決める遺産分割協議において、自身の相続分を0とすれば、相続を辞退する結果となります。

つまり、遺産分割協議において、自分の『相続分を0にする』=『相続分を放棄』することによって相続を辞退することが可能となります。

今回の事例においても、XさんとXさんの母親が遺産分割協議を行い、Xさんの相続分を0にすることで、亡き父親の遺産を全て母親に相続させることが可能となります。

相続放棄には注意が必要

相続手続きの中には、「相続放棄」という制度があります。相続放棄は、主に、被相続人が残した借金等の負の遺産がある場合に利用される制度ではありますが、相続放棄をすると、放棄をした相続人は、「初めから相続人とならなかった」ものと法律上みなされますので、借金はもちろん、プラスの財産も相続することがなくなります。

つまり、相続放棄をした場合にも、放棄をした相続人は相続を辞退するのと同様の結果になります。

ただし、相続放棄をする場合には、注意すべき点がいくつかあります。

まず、相続放棄を行うためには、遺産分割協議における『相続分の放棄』とは異なり、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。

また、相続放棄には期限が設けられており、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から」3ヶ月以内に行う必要があります。

さらに、相続放棄をすると、その放棄をした相続人は、はじめから相続人ではなかったことになるため、他に同一順位の相続人がいない場合には、相続人の順位が変動し、後順位の相続人に相続権が移る場合があります。

ですので、「自分は相続を辞退したいけど、後順位の相続人に相続権が移るのは困る」という場合には、相続放棄ではなく、相続分の放棄を選択する必要があります。

例えば、今回の事例で、亡き父親の子はXさん一人ですが、他の相続人の候補として父親の兄弟姉妹がいたとします(Xさんの祖父母は既に他界)。このようなケースで、仮にXさんが相続放棄すると、相続人の順位が変動し、Xさんの代わりに父親の兄弟姉妹が相続人となってしまいます。

そうすると、Xさんの母親と父の兄弟姉妹が、父親の遺産を分け合う格好になってしまうため、かえって遺産分割の手続きが複雑化してしまうおそれがあります。

 

実家を母親名義にするデメリット

遺産分割協議で子が自身の『相続分を放棄』することで、母親に遺産を全て相続させることは可能です。遺産を全て譲らなくても、「実家だけは母親に相続して欲しい」という場合には、母親が実家を相続する旨の遺産分割協議書を作成することで、実家のみを母親に相続させることも可能です。

実務上、父親と母親が実家に住んでいたケースで父親が亡くなると、残された母親に実家を相続して欲しいというケースは非常に多く見られます。

しかし、実家不動産の名義を母親にすることに全くデメリットがないわけではありません。不動産の名義を母親にする場合には、以下のデメリットを理解した上で、名義を母親にするのか子にするのかを検討することが重要となります。

二次相続時の相続税が高額になるリスク

父親が亡くなった際に(一次相続)、母親が全ての遺産を相続すると、配偶者控除等を利用することにより、その一次相続時の相続税は安く抑えることができるケースがほとんどです。

しかし、父親の死後、母親も亡くなった際の相続、これを二次相続と言いますが、その際には、配偶者控除等は使えませんし、一次相続時より二次相続時の方が、単純に相続人の頭数も減っていることになるため、相続税の基礎控除額も減り、納付すべき相続税が高額になってしまう危険性があります。

遺産が一定程度ある場合には、一次相続時だけでなく二次相続時を含めた相続税額のシミュレーションを行うことが重要となります。

認知症のリスク

遺産を全て母親名義で相続させた後に、その母親が認知症になってしまった場合、仮に、施設に入所する費用を捻出するために、実家を売却しようと思ったとしても、母親名義の実家を売却するためには、母親に家の売買契約を締結する能力が法律上要求されるため、認知症の母親にはそのような能力はないものとして、実家の売却ができず、必要な入所費用の調達が困難になるおそれがあります。

また、認知症と判断されると、銀行口座の取引が制限され、せっかく相続したお金も引き出すことができなくなってしまうおそれもあります(ただし、成年後見等の手続きで対応できる場合があります)。

認知症対策の一環として、母親が高齢の場合には、いつでも実家を売却できるように、実家の名義を母親名義ではなく子名義にしておくという方法もあり得ます

配偶者が亡くなった途端に、話し相手がいなくなり、急激に認知能力が衰えるというケースも少なくありません。一度、認知能力が衰えてしまうと、法律行為に制限がかかってしまう場合がありますので、認知症になる前の対策は非常に大切です。

相続登記の手間・費用が増えるリスク

相続した不動産の名義変更のことを、専門用語で『相続登記』と言います。相続登記を申請する際には、登録免許税と呼ばれる税金を納める必要があり、また、司法書士に依頼する場合には、その報酬も必要となります。

相続登記の申請は、2024年4月1日より義務とされましたので、相続した不動産の名義変更は必ず申請しなければなりません。

仮に、父親名義の不動産を母親に名義変更し、その後、母親も亡くなり、母親名義の不動産を子名義に変更すると、合計2回、相続登記を申請することになります。

それに対して、父親が亡くなった際に、不動産の名義をダイレクトに子名義に変更すると、相続登記の申請回数は1回で済むことになりますので、その分の手間や費用を節約することができます。

実家の名義を子ではなく母親名義にすると
・遺産の額によっては二次相続時の相続税が高額になるリスク
・認知症のリスク
・相続登記の手間・費用が増えるリスク
があります。

 

実家を子名義にするデメリット

家族全体の経済的合理性を考慮すると、亡き父親名義の不動産は、ダイレクトに子名義にした方がメリットが多いようにも思えますが、子名義にした場合にもデメリット・注意点があります。

母親の居住権の問題

実家の名義を子名義にした上で、母親が実家に住み続けるということになると、母親は言わば「他人の家に住んでいる」状態になります。また、名義が子である以上、そこに住んでいなくても固定資産税の納税義務者は子になります。

母親と子の関係が良好であり、強固な信頼関係があればさほど問題にはなりませんが、その関係如何によっては、居住権や固定資産税の支払をめぐってトラブルになる危険性があります。

子の死亡や破産

レアケースにはなりますが、実家を相続した子が、母親より先に亡くなってしまった場合には、実家が母親以外の者に相続されるおそれがあります。

例えば、今回の事例のXさんが母親よりも先に亡くなった場合には、Xさんが相続した実家は、Xさんの相続人に相続されることになります。Xさんに配偶者や子がいる場合には、その配偶者や子が相続人となります。仮に、Xさんの相続人とXさんの母親の関係が良好ではなかった場合には、居住権の問題等が顕在化する危険性があります。

また、こちらもレアなケースかもしれませんが、Xさんの経済状態が悪化した場合に、お金に困って、つい実家を第三者に売却してしまったり、Xさんに売却の意図はなくても、仮に破産するようなことがあれば、実家を強制執行や破産手続きにより換価されてしまう可能性があります。

一次相続時の相続税が高額になるリスク

一次相続時に、母親(故人の妻)が遺産を相続する際には、配偶者控除という大きな控除が使えますが、子が相続する場合には、配偶者控除は使えません。

そのため、高額な不動産をそのまま子が相続すると、一次相続時の相続税額が増加し、かえってトータルの税負担が増加するリスクがあります。

実家不動産の名義を母親名義にする場合、子名義にする場合のそれぞれのパターンにおいて、相続税の負担はどうなるのか、相続税額のシミュレーションを行うことが重要となります。

 

子名義にする場合の配偶者居住権の活用

実家を相続する際に、その名義を子名義にすると、上で解説したようなリスク・デメリットがありますが、配偶者居住権というものを活用すると、そのリスクを緩和することが可能です。

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、一定の要件のもとに終身または一定期間、無償で住み続けられる権利のことをいいます。

この配偶者居住権は、建物の価値を「自宅に住む権利(居住権)」と、「それ以外の権利(所有権)」に分離し、居住権を配偶者に相続させ、所有権を他の相続人に相続させることによって、残された配偶者が住む場所に困らないようにするための制度です。

配偶者居住権を設定すると、自宅所有権(名義)を子が取得しつつも、そこに住む権利を母親に保障することが可能となります。

また、配偶者居住権は、登記をすることもできますので、登記を備えると、仮に自宅所有権が他人の手に渡ったとしても、居住権を主張することができますので、立ち退き等のリスクを回避することができます

そして、配偶者居住権を設定すると、建物の所有権は、配偶者居住権が付着した所有権として評価が下がるため、一次相続時における、子が相続する不動産の評価額を減らすことにも繋がります

配偶者居住権について詳しい解説は「第155回相続コラム 令和2年4月1日から施行された配偶者居住権とは」をご覧ください。

 

おわりに

今回のコラムでは、よくある相談事例をもとに、典型的な相続のパターンにおける実家の名義は、母親と子のどちらにすべきか、判断する際のポイントや注意点等について解説しましたが、いかがだったでしょうか。

実家の名義を母親名義にした場合も子名義にした場合も、それぞれメリット・デメリットがありますので、遺産の状況・家族の状況・家族間の関係などを総合的に判断し、慎重に検討する必要があります。必要に応じて、配偶者居住権の活用を考慮に入れることも大切です。

なお、相続の問題に関しては、経済的な合理性だけでは計れない『心情』というものもあります。「多少費用はかかっても、しっかり母親に相続させ、名義も母親がいい」として、母親名義を選択される方も少なくありません。

ただ、その場合でも、相続税のシミュレーションも含め、想定されるリスクをしっかりと理解した上で、選択することが、後のトラブルを避けるためにも大切になります。

ご自身の相続のケースで、父親名義の不動産を母親名義・子名義にすると、それぞれどのようなリスクがあるのか、相続税はどうなるのか、まずは相続の専門家に相談することをおすすめします。

当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。また、相続税に力を入れている税理士とも提携しております。 相談は、初回無料ですので、相続についてわからないことや、お悩みのある方は、お気軽にご相談ください。