第317回相続コラム 相談事例から解説する「祖父名義のままの実家…どうすればよいのか?」数次相続と相続登記について
「相続した実家の登記簿を調べたら、亡くなった父の名義ではなく、祖父の名義のままだった…」という相談は、非常に多く寄せられます。相続が発生した際に、その都度、不動産の名義変更(専門用語で「相続登記」と言います)をしていなかったために、世代をまたいで名義が放置されてしまっているというケースは珍しくありません。
今回のコラムでは、よくある相談事例をもとに、祖父名義となっている実家の相続手続き、相続登記をどのように進めたらよいのか解説したいと思います。
※本コラムの事例は、解説の便宜のために構成された架空の事例になります。実際の取り扱い事件とは異なります。
相談事例
事例概要
数ヶ月前に、相談者Xさんの父が亡くなりました。Xさんの母は既に他界しているため、亡き父の遺産は、実家を含めてXさん一人で相続することになりました(Xさんに兄弟姉妹はいない)。
しかし、いざ相続手続きを進めようとしたところ、実家の登記簿を確認すると、父名義ではなく、祖父名義のままとなっていました。
「長年住んでいた実家なので、てっきり父名義と思っていたのに祖父名義のままなので、どのように相続手続きを進めたらよいのかわからない…」ということで、司法書士事務所に相談に来られたという事例になります。
なお、Xさんの祖母は祖父より先に他界していますが、Xさんの父の弟(叔父)は存命です。
事例のポイント
本事例では、Xさんは亡き父の相続人のため、「父の遺産」を相続することができます。しかし、不動産の名義は父名義ではなく祖父名義であり、また、Xさん自身は祖父の相続人ではないため、通常の相続手続きとは趣が異なります。
本事例のようなケースは「数次相続」と呼ばれますが、数次相続のケースでは、どのような手続きが必要となるのか、基本から解説していきます。
数次相続とは何か
相続が発生すると、亡くなった方(専門用語で「被相続人」と呼びます)の財産は、遺言がなければ、相続人に自動的に相続されます。
被相続人が所有していた家や土地などの不動産も相続人に相続されますので、相続人が不動産の新たな所有者となります。
しかし、所有者が相続によって変わったとしても、所有者が誰であるかの記録、つまり、不動産の名義は自動的に変更されるわけではないので、名義を変更するためには手続きが必要となります。
不動産の名義変更手続き、すなわち相続登記を、相続が発生した場合に、その都度申請しないと、本事例のように祖父名義のままの不動産を相続するという現象が生じてしまいます。
この『複数の相続が未処理のまま重なった状態』のことを『数次相続』と呼びます。
数次相続のケースでは、時間の経過とともに相続関係が複雑化するリスクがあります。手続きを放置すればするほど、未処理の相続手続きも増加し、また、相続人について更に相続が発生すると、相続人の数もねずみ算式に増えてしまうおそれがあるため注意が必要となります。
数次相続について詳しい解説は「第24回相続コラム どんどん増える!?意外とこわい数次相続とは?」をご覧ください。
数次相続が起こる背景と相続登記義務化
数次相続が起こる背景として、従来は、相続登記を申請するか否かは、相続人の自由意思に委ねられていたということがあります。相続登記の申請には手間も費用もかかるため、つい後回しにされてきたケースも多く、実際に祖父母等の名義のまま数十年が経過している不動産も少なくありません。
そこで、2024年4月1日に施行された改正法では、相続登記の申請は義務とされ、相続発生後、一定期間内にその申請を行わないと、罰則の適用を受ける可能性があります。今後は、相続登記の義務化により、名義が放置されるという数次相続の問題は減少していく可能性がありますが、本コラム執筆時点では、本事例のような相談が多く寄せられています。
数次相続のケースにおける相続登記
相続ごとに登記申請を行うのが原則
数次相続のケースでは、複数の相続について相続登記の申請がなされていない状態にありますが、相続ごとに登記の申請を行うのが原則となります。
本事例で言うと、祖父から父への相続(一次相続)、父から子(Xさん)への相続(二次相続)の双方が未処理の状態となりますので、 一次相続と二次相続、それぞれについて相続登記の申請をするのが原則ということになります。
例外的に過去の相続の登記申請を省略できる場合
不動産の権利関係が変動した場合には、その原因たる事実が発生する度に、その都度、登記を申請するのが原則となります。過去の登記を省略して、いきなり現在の権利関係を登記するというようなことはできません。
ただし、一部の数次相続のケースでは、過去の登記を省略した登記申請が例外的に認められる場合があります。具体的には、中間の相続人が1人の場合には、その相続の登記を省略して、一件の登記申請で現在の相続人に名義を変更することが可能という実務運用がなされています。
今回の相談事例では、祖父の相続人として父の他に叔父もいるため、中間の相続人は1人ではありません。ですので、「叔父が相続放棄していた」、「父が単独で実家を相続する旨の遺産分割協議が叔父との間に既に成立していた」等の事情がない限り、そのままでは祖父から直接Xさん名義とする登記を申請することはできません。
過去の登記を省略して相続登記を申請するためには、祖父の遺産である実家について叔父と遺産分割協議を行い、中間の相続人を父のみにする必要があります。
今回の相談事例では、祖父から父への一次相続に関する相続登記と父からXさんへの二次相続に関する相続登記、その二つの登記を申請するのが原則となります。
ただし、叔父の協力を得ることができるのならば、父が単独相続する旨の遺産分割協議書を作成し、一次相続の登記を省略した一件の登記申請で、Xさんへの名義変更が可能となります。
なお、祖父の遺産についての協議は、その相続人である父と叔父で行うものですが、父は既に亡くなっているため、祖父の相続人たる地位を父から受け継いだXさんが代わりに行う格好となります。
旧民法下の家督相続
今回の相談事例では、祖父が亡くなったのは1947年5月3日以降、すなわち現行民法下の相続を念頭においています。仮に、祖父が亡くなったのが1947年5月2日以前ということになると、旧民法が適用されますので、父が長男として家督相続人に該当する場合には、祖父の遺産を単独で家督相続していたことになります。
そうすると、中間の相続人は父のみとなるため、叔父との遺産分割協議は不要となり、祖父からXさんへの相続登記を一括して申請することが可能です。
おわりに
今回のコラムでは、よくある相談事例をもとに、祖父名義となっている実家の相続手続き、相続登記をどのように進めたらよいのか解説しましたが、いかがでしたか。
いわゆる数次相続のケースでは、複数の登記申請が必要となるのが原則ですが、例外的に過去の登記を省略して、一括して申請することができるケースもあります。ただ、その場合でも、何代も前の相続について遡って戸籍を収集したり、複雑な申請書を作成したりする必要があるため、数次相続のような複雑な相続のケースでは、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。相談は、初回無料ですので、相続についてわからないことや、お悩みのある方は、お気軽にご相談ください。
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