第85回相続コラム 具体例から学ぶ相続登記をすべきタイミング

相続コラム

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第85回相続コラム 具体例から学ぶ相続登記をすべきタイミング

第85回相続コラム 具体例から学ぶ相続登記をすべきタイミング

今回のコラムでは、具体例をもとに相続登記をすべきタイミングと相続登記をしないことによるリスクについて解説したいと思います。

 

事案

亡くなった母の自宅マンションについて、兄弟4人で遺産分割協議書を取り交わし、私が1人で相続することになりました。マンションには以前から現在も私と妻子が暮らしています。

マンションの相続登記にはそれなりにお金がかかると聞きました。4人が実印で押印した遺産分割協議書と他の3人の印鑑証明書が手元にあれば、必ずしも相続登記はしなくても毎年固定資産税を支払っていれば特に問題ないと知人から聞きましたが、本当でしょうか?

 

相続登記は現在義務ではない

不動産の相続登記については、2020年8月現在、日本の法制度上、義務とはされていません。したがって、相続登記をしなかったからといって、何かしらの罰則等があるわけではありません(もっとも、相続登記の義務化については近年議論が盛んになっています。詳しくは(「第48回相続コラム 深刻化する所有者不明の土地問題。相続登記の義務化?」をご参照下さい。)。

 

相続登記をしないリスク

相続登記をすることは義務ではありません。しかし、以下の理由から、不動産の相続を含む遺産分割協議が完了した件については、速やかに司法書士に依頼して相続登記を済ませることをお勧めします。

戸籍に不足があるリスク、遺産分割協議書に不備があるリスク

相続登記を担当する司法書士や、申請書類が提出された法務局は、被相続人の出生から死亡までの戸籍等が揃っているかどうか、遺産分割協議書に不備がないか等々細かくチェックします。当事務所でも頻繁に相続登記のご依頼をいただきますが、お客様にご用意いただいた戸籍が不足していたり、遺産分割協議書の内容に訂正が必要であったりすることは珍しくありません。法定相続人が漏れていたり、不動産の記載に誤りがあったりすると、もう一度相続人全員のご協力をいただいて、書類を作り直す必要が生じる場合があります。一度成立したはずの遺産分割協議も時間が経つと、例えば他の相続人が亡くなってしまったり、認知症等で意思能力をなくしていたり、そもそも気が変わってしまっていたり、修正が困難になってしまうリスクが高くなっていきます

遺産分割協議書を紛失してしまうリスク

作成した大事な遺産分割協議書や受け取ったはずの他の相続人の印鑑証明書を失くしてしまうリスクも、時間が経てば経つほど大きくなります

これらの書類は相続登記の添付書類として法務局に提出しても原本還付の手続をとれば、登記完了後に原本は返却されます。登記申請してしまうと重要な書類の原本が無くなってしまうという心配は全く必要ないものです。

他の相続人が共有名義で登記申請をして、その共有持分を処分してしまうリスク

遺産分割協議が成立した後であっても、他の相続人の一人が、法定相続分に応じた法定相続人全員の共有名義での相続登記の申請をすることが可能です。成立した遺産分割協議に反する内容で登記申請をすることは勿論違法ではありますが、実際にこのような登記申請をされてしまうと被害の回復が困難なケースが少なくありません。不動産の共有持分だけを売却することはできないのが通常ですが、持分だけでも買取りする不動産業者等に売却されてしまうなどすると、取り返しのつかないことになる可能性もあります。他の相続人が借金の支払いに遅れていると、債権者がその相続人に代わって相続登記をしてしまう可能性もあります。

この相談者自身が亡くなってしまうリスク

相続登記をしないうちに相談者様自身に万一のことがあると、ご家族はその後の相談者様の相続手続で困惑することになります。実際にそのような相談が司法書士事務所に持ち込まれることはあり、解決ができないわけではありませんが、可能な限りそのような状況は避けるべきです。

不動産の相続を含む遺産分割協議が成立した件については、速やかに司法書士に依頼して、相続登記の申請を済ませることをお勧めします。当事務所でも相続登記に関する相談を幅広く承っております。お気軽にご相談ください。