第307回相続コラム 相続登記義務化による罰則 過料は誰が払うのか基本から徹底解説

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第307回相続コラム 相続登記義務化による罰則 過料は誰が払うのか基本から徹底解説

第307回相続コラム 相続登記義務化による罰則 過料は誰が払うのか基本から徹底解説

2024年4月1日より相続登記が義務化されましたので、相続や遺言によって不動産を取得した場合には、相続登記を申請しなければなりません。相続登記の申請を怠った場合には、罰則の適用があり、10万円以下の過料という制裁が科せられる場合があります。今回のコラムでは、相続登記義務化とその罰則について基本から丁寧に説明し、申請を怠った場合に、誰が過料を払うのか解説したいと思います。

 

相続登記義務化について

そもそも相続登記とは

人が亡くなると、その故人(被相続人)が所有していた財産は、相続人に相続されます。被相続人が自宅や土地などの不動産を所有していた場合には、それらの所有権も相続人に移転することになります。

そして、不動産は一般的に価値の高い財産なため、その権利関係を明確にするために、法務局の記録簿(法務局の記録簿のことを「登記簿」と言います)に、不動産の名義や権利関係を登録しておくことができます。相続による不動産の所有権移転を登記簿に反映させることを相続登記と呼びます。

つまり、簡単にいうと、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する手続きが相続登記というわけです。

 

相続登記の申請は義務

法改正前は、相続登記を申請するか否かについては、権利者の自由意思に委ねられていましたが、法改正により、相続登記を申請することは義務とされました。

つまり、相続や遺言によって不動産を取得した者は、必ず相続登記を申請しなければなりません。

インターネットなどで相続登記について検索すると、相続登記の申請は任意である旨の記載を見かけることも少なくありませんが、情報が古くなっている可能性がありますので、その情報がいつの時点の情報なのか注意する必要があります。

2024年4月1日以降は、相続登記の申請は義務となっています。

 

相続登記義務化の背景

相続登記が義務化された背景にはいわゆる「所有者不明土地問題」があります。誰が所有者かわからなくなってしまった土地は日本全体の土地の面積の約2割を占めるというデータもあります。所有者が不明な土地は、利用・開発しようにも、所有者が誰かわからない以上、勝手に処分することもできず、休眠した土地として全く活用できない状態になってしまいます。

そのような土地が発生しないようにするために、相続によって土地等の不動産の所有権が移転した場合には、その所有者を公の記録簿にきちんと記録して、土地等の有効活用を図れるようにするというのが今回の法改正の趣旨です。

 

相続登記義務化の注意点

相続登記の義務化について、改正法が施行されたのは2024年4月1日ですが、相続登記の義務化で注意しなければならないのが、改正法施行前に発生した相続についても、相続登記義務化の対象となるということです。

つまり、2024年4月1日より前に発生した相続についても、名義変更していない不動産がある場合には、登記の申請が必要ということです。

改正法施行前の相続を義務化の対象外とすると、相続登記が行われずに放置されている現状の問題を解決できず、「所有者不明土地問題」を解消できないからです。

改正法施行前の相続についての相続登記の申請期間は、改正法が施行された日または自分が相続によって所有権を取得したことを知った日の、いずれか遅い方が起算日になり、そこから3年以内に相続登記の申請をする必要があります。

まとめ
■相続登記は、簡単に言うと、相続した不動産の名義変更です。
■相続登記の申請は「所有者不明土地問題」を解消するために義務化されました。
■相続登記の申請が義務となったのは2024年4月1日です。
■一定期間内に相続登記を申請しないと罰則の適用があります。
■改正法施行前の相続も義務化の対象となります。

 

相続登記を申請しないとどうなるのか

罰則の適用

相続登記の義務化により、相続登記を申請することは義務とされ、法律で定められた期間内に登記を申請しないと、罰則の適用があり、10万円以下の過料に処せられることになります。

 

相続登記しないことのデメリット

相続登記を法律で定められた期間内に申請しないと罰則の適用があるだけでなく、相続登記をしないことによる様々なデメリットがあります

一般的に、他人名義のままとなっている不動産を買い取ったり、借りる人は少ないため、登記が未了の状態では、相続した不動産を活用することが難しくなります。また、不動産の名義は、誰がその不動産の所有者であるかを示すものであり、不動産取引上の重要な要素であるため、しっかりと名義を変えておかないと、第三者に不動産を奪われる危険性もあります。相続登記が未了のまま、さらに相続が発生すると、相続人の数が膨大になり、手続きが複雑化し、費用や手間も増えてしまうおそれもあります。

相続登記をしないことのデメリットについて詳しい解説は「第278回相続コラム 相続登記をしないとどうなる?相続登記義務化と登記しないことのデメリット」をご覧下さい。

 

相続登記の罰則

過料

相続登記の義務化により、相続登記を申請することは義務とされ、法律で定められた期間内に登記を申請しないと、罰則の適用があり、10万円以下の過料に処せられることになります。

過料とは、行政上の秩序を維持するために、行政法規上の義務違反に対して少額の金銭を徴収する罰則のことをいいます。

過料は行政罰であり、刑事事件における刑事罰とは異なりますので、過料に処せられたとしても、前科にはなりません

なお、罰金刑は刑事罰なので前科になりますし、過料とよく似た刑罰として、科料という刑罰がありますが、科料も過料もどちらも発音は“カリョウ”で同じなのですが、科料は刑事罰なので、科せられると前科になります。

 

申請期間

単独で不動産を相続した場合、法定相続分で登記する場合、遺贈で不動産を取得した場合には、「相続の開始を知って、かつ、所有権を取得したと知った日から3年以内」に登記を申請する必要があります。

相続開始後、遺産分割協議を行い、遺産分割協議に基づいて登記する場合も「相続の開始を知って、かつ、所有権を取得したと知った日から3年以内」に登記を申請する必要があります。

法定相続分で登記した後に、遺産分割協議を経て、法定相続分とは異なる割合で不動産の所有権を取得した際には、「その分割の日から3年以内」に登記申請する必要があります。

 

罰則適用までの流れ

相続等によって不動産を取得した者は、上で解説した申請期間内に相続登記の申請をしなければなりません。

しかし、法律で定められた期間が経過したともしても、すぐに制裁が科せられるわけではありません。

法務局の登記官が、義務違反を発見した場合には、義務違反者に対して登記をするよう催告することになっているからです。具体的には、法務局から、義務違反者に対して登記を申請するよう催告する『催告書』が郵送されます。

催告を受けた義務違反者が、催告書に記載された期限内に登記を申請しない場合には、法務局の登記官が裁判所に義務違反を通知することになります。

登記官から通知を受けた裁判所は、過料を科すか否かを判断し、過料を適用する場合には過料の金額を決定します。

ただし、催告を受けた相続人から説明を受けて、登記申請を行わないことにつき、登記官において「正当な理由」があると認めた場合には、裁判所への通知は行われず、罰則の適用もありません。

なお、登記申請を行わないことについて「正当な理由」があると認められる場合について詳しい解説は、『第217回相続コラム 罰則のある相続登記の義務化-登記申請しないことに「正当な理由」があると認められる場合とは』をご覧下さい。

 

相続登記の罰則、過料は誰が払うのか

相続登記の申請を怠った場合には、罰則の適用があり、10万円以下の過料という制裁が科せられる場合があります。では、その過料は具体的に誰が科せられるのでしょうか。

罰則が科せられるのは、登記の申請義務があるにも関わらず、その申請を怠った者ですが、登記申請義務を負う者は、相続のケースによって異なります。以下、場合を分けて解説します。

遺言がある場合

遺言によって不動産を取得した者(相続人も含む)は、遺贈(または相続)を原因とする所有権移転登記を申請する義務を負います。

したがって、遺言によって不動産を取得した者が登記の申請を怠ると、罰則が適用される可能性があります。

なお、遺言によって、その不動産を相続しないことになった相続人には、登記の申請義務はありません。

 

遺言がなく、法定相続分で相続する場合

相続が発生し、遺言がない場合には、故人の遺産は法定相続分に従った割合で、相続人間の共有財産となるのが原則です。

故人が所有していた不動産も、相続人間の共有財産となり、各相続人は法定相続分に従った割合で、不動産を取得(共有持分を取得)したことになります。

共有持分を取得した相続人も、相続を原因とする登記申請義務を負いますので、登記の申請を怠ると、共有持分を相続した全ての相続人に罰則が適用される可能性があります。

なお、相続人が1人で不動産を単独相続した場合には、その相続人が登記の申請義務を負います。また、相続放棄した相続人がいる場合には、その放棄をした元相続人は、登記の申請義務を負いません。

 

遺産分割協議が成立した場合

遺産分割協議を行い、その協議によって不動産を相続することになった相続人は、相続登記を申請する義務を負います

他方で、遺産分割協議によって不動産を相続しないことになった相続人には、登記の申請義務はありません

ただし、相続開始後3年以内(※)に遺産分割協議が整わない場合には、注意が必要となります。(※正確には「相続の開始を知って、かつ、所有権を取得したと知った日から3年以内」)

相続開始後、遺産分割協議が成立するまでの間は、遺産は相続人間の共有状態となっているため、法形式上は、法定相続分に従った割合で各相続人が不動産を相続した格好になっています。そして、相続人が遺産分割協議を行っているかどうかは、登記官や裁判所には不明ですので、相続開始後3年経過しても、遺産分割協議の結果に基く相続登記が申請されていない場合には、相続人全員に対して罰則が適用される可能性があります。

ですので、遺産分割協議が長期に及ぶようなケースでは、「相続人申告登記」という簡便な手段で罰則の適用を回避できる制度がありますので、その利用をオススメします。

相続人申告登記について詳しい解説は「第125回相続コラム 相続登記の義務化と新設された制度(相続人申告登記)」をご覧下さい。

 

おわりに

今回のコラムでは、相続登記義務化とその罰則について基本から丁寧に説明し、申請を怠った場合に、誰が過料を払うのか解説しましたが、いかがだったでしょうか。相続登記義務化から丸一年が経過しており、その内容を忘れている方もいらっしゃるかと思い、少し長めのコラムにはなってしまいましたが、基本から丁寧に解説いたしました。

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