第304回相続コラム 兄弟姉妹が相続人となる場合における代襲相続人の範囲【令和6年11月12日最高裁判決】

令和6年11月12日に、兄弟姉妹が相続人となる場合における代襲相続人の範囲について、最高裁で新しい判断が示されました。一審と二審とで判断が分かれ、最終的に最高裁で判断されることになり、一部報道でも話題となりました。結果としては、「代襲相続できる」とした二審判決を破棄し、「代襲相続できない」との判断を最高裁は下しました。
今回のコラムでは、裁判で問題となった争点及びそれに対して下された最高裁の判断について解説したいと思います。
なお、事案については、わかりやすく解説する都合上、一部内容を改変しております。
事案概要
今回の事案では、上の図のXがYの財産を相続できるか否かが争われました。
Yには子がいませんし、Yの両親等も既に他界していたため、仮にAが存命であった場合には、Aが第三順位の相続人として、Yの財産を相続することになっていた事案です。AとYは元々「いとこ」の関係でしたが、AはYの母親と養子縁組をしていたため、AとYは「兄弟姉妹」の関係になっていたからです。
しかし、今回の事案では、Yについて相続が発生した時点では、Aも亡くなってしまっていたため、Aの子であるXが、Aを代襲して相続できるか否かが問題となりました。
事案の争点
養子の子が代襲相続できるか否かについては、大審院時代の判例があり、養子縁組後に出生した子は代襲相続人になれますが、養子縁組前に既に出生していた子は、代襲相続人にはなれないとされています。
その理由は、養子縁組が成立すると、養子と養親との間に親子関係が発生しますが、養子縁組前に既に養子の子として出生していた者と養親との間に血族関係が発生するわけではないからです。
養子の子と代襲相続について詳しい解説は、「第302回相続コラム 養子の子と代襲相続について基本から解説」をご覧ください。
本事案のXは、AとYの母が養子縁組する前に出生しているため、その養子縁組の効果はXには及ばず、XとYの母との間に新たな血族関係は発生していません。
しかし、AとYの母との養子縁組の効果がXには及ばないとしても、元々、AとYとは「いとこ」同士の関係にあり、Xから見たYも5親等の傍系血族という関係にあります。
つまり、XとYとの間には、一応、傍系血族という関係がある以上、代襲相続する資格が認められる余地があるようにも思われます。実際、この点から「代襲相続することができる」と判断したのが二審判決になります。それに対して、「単に傍系血族というだけでは代襲相続することはできない」と判断したのが、一審と最高裁の判決になります。
本事案は、兄弟姉妹が相続人となる場合における代襲相続人は、被相続人とどのような血族関係が必要なのかが争点となっています。
民法第887条第2項
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
民法第889条
1. 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2. 第887条第2項の規定は、前項第2号の場合について準用する。
代襲相続を規定した民法第887条第2項は、その但書において、「被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」と規定し、代襲相続人となる者を、被相続人の直系卑属に限定しています。
そして、兄弟姉妹が相続人となる場合にも、代襲相続の適用がある旨を、民法第889条第2項が規定していますが、その規定の仕方として、「第887条第2項の規定は、前項第2号の場合について準用する。」と定めるのみで、具体的に、第887条第2項の規定を、兄弟姉妹が相続人となる場合に、どのように準用するのかについては、明確にしていません。
民法第887条第2項但書の規定を準用する際に、どのように読み替えるのかによって、代襲相続人の範囲が異なってくるため、その読み替え方が本事案の争点となりました。
例えば、二審の判断のように、兄弟姉妹が相続人となる場合に、民法第887条第2項但書の規定を、単に「被相続人の傍系卑属でない者は、この限りでない。」と読み替えて準用すると、本事案のXはYの5親等の傍系卑属にあたりますので、代襲相続人となることができます。
兄弟姉妹は元々傍系血族ですので、兄弟姉妹が相続人となる場合には、被相続人の直系卑属が代襲相続人になることはないので、「直系卑属」を「傍系卑属」にシンプルに読み替えた解釈です。
最高裁の判断
最高裁の判断ですが、結論から言うと、兄弟姉妹が相続人となる場合における代襲相続人は、その兄弟姉妹の共通の親の直系卑属に限ると判示しました。
本事案で言うと、Yの母を介してAとYは兄弟姉妹の関係になっていることから、AとYの共通の親はYの母ということになります。そして、XはYの母の直系卑属ではないので、代襲相続はできないという結論になります。
本事案の判断の背景には、単に「傍系血族の関係にある」というだけで代襲相続を認めてしまうと、相続人の範囲が広くなりすぎてしまいますし、今回の事案で言うところのYの母(Xの4親等の傍系血族)についてXは何らの相続権を有しないのに、より遠い血族関係のY(Xの5親等の傍系血族)について相続権を有するのはおかしいという価値判断があると考えられます。
本事案のYの母が亡くなった際には、その子であるAとYが相続人となります。仮にYの母より先にAが亡くなっていた場合には、代襲相続の問題となりますが、AはYの母の子なので準用ではなく直接民法第887条第2項が適用されます。そして、その但書で明確に直系卑属でない者を代襲相続人から除外しているため、Xは代襲相続することはできません。にもかかわらず、より遠い血族であるYの相続について、都合良く準用された規定を読み替えて、Xに代襲相続を認めるのはおかしいということです。
また、そもそも代襲相続の範囲を限定した民法第887条第2項但書は、いわゆる養子縁組前の養子の子の相続権を否定する趣旨であったことから、その趣旨を踏まえて、代襲相続人の範囲を限定的に解釈したのが最高裁の判断となります。
最高裁の判断によりますと、兄弟姉妹が相続人となる場合に、民法第887条第2項の規定を準用する際には、その但書の規定を、「被相続人の傍系卑属でない者は、この限りでない。」と読み替えるのではなく、「被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は、この限りでない。」と読み替えるべき、ということになります。
令和6年11月12日最高裁判例
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=93490
おわりに
今回のコラムでは、令和6年11月12日の最高裁判例を元に、兄弟姉妹が相続人となる場合における代襲相続人の範囲について解説しましたが、いかがだったでしょうか。
今まで曖昧だった、兄弟姉妹が相続人となる場合における代襲相続人の範囲について、最高裁が明確に判断を示したという点において、大変意義深い判決でしたので、コラムで解説することとしました。
「誰が相続人となるのか」という相続の基本的な問題に関しても、未だに最高裁まで争うような事案が存在します。相続の問題には、一見簡単そうに見えても、専門的に見ると、解決すべき重要な問題が潜んでいるというケースも少なくありません。相続の問題で判断に迷った場合には、まずは相続の専門家に相談することをおすすめします。
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