第291回相続コラム 相続財産清算人とは何か、相続財産清算人が必要なケースも解説
故人の遺産は相続人に相続されるのが通常ですが、故人に元々相続人がいなかったり、相続人がいたとしても、相続人全員が相続放棄、廃除、欠格等により相続人たる資格を失い、結果として相続人が一人もいなくなった場合、故人の遺産はどうなるのでしょうか。相続人が全くいない場合には、最終的に遺産は国庫に帰属することになりますが、そのための事務手続き等を行う者が必要になります。今回のコラムでは、相続財産清算人とは何か、その選任が必要とされる代表的なケースについても解説したいと思います。
相続財産清算人とは
相続財産清算人とは、故人(被相続人)に元々相続人がいない場合や相続放棄等により結果として相続人がいなくなった場合に、相続財産を管理・清算し、最終的に残った財産を国庫に帰属させる職務を行う人のことをいいます。
相続財産清算人は、利害関係人や検察官の申し立てにより、家庭裁判所によって選任されます。
例えば、故人にお金を貸していたという人は、通常は、お金を返す義務を相続した相続人にお金を返してもらうことができますが、相続人が誰もいないという場合には、誰にお金を請求していいのか不明になってしまいます。故人の遺産が存在していたとしても、その遺産を勝手に処分したりすることはできないので、そのような場合には、利害関係人として、相続財産清算人の選任申し立てを行うということになります。
少し専門的なお話しになりますが、法律上、人が亡くなり、その故人に相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とみなされます。相続財産の元々の所有者である故人は既に存在せず、相続人が不明という状況においては、相続財産が、誰にも帰属していない財産として、一種の“宙ぶらり”の状態になってしまいますので、そのような状態の発生を避けるために、相続財産自体を法人とみなし、相続財産法人に相続財産が帰属しているという状態にしています。ですので、相続財産清算人が選任された場合には、相続財産清算人は、相続財産法人の一種の代表者のようなかたちになります。
民法第951条
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
相続財産清算人が必要となる代表的なケース
相続財産清算人の選任が必要となる代表的なケースは、次のようなケースとなります。
相続債権者が債権を回収したい場合
上の例で挙げたように、故人にお金を貸していた債権者や葬儀費用を立て替えた者が債権を回収したいという場合には、相続財産清算人の選任が必要となります。
特別縁故者が相続財産を受け取りたい場合
特別縁故者とは、被相続人に相続人がひとりもいない場合に、被相続人と特別の関係(縁故)があったことを理由に、遺産の全部または一部を受け取ることのできる人をいいます。
特別縁故者として認められた場合には、遺産の全部または一部を受け取ることができますが、特別縁故者が遺産を受け取れる状況というのは、相続人が一人もいない状況ということであり、実際に遺産を処分・分与する事務処理を行う人も存在しない状況を意味するので、遺産を受け取る前提として相続財産清算人の選任が必要となります。
特別縁故者について詳しい解説は、「第251回相続コラム 相続人ではないけど遺産を受け取ることのできる特別縁故者とは」をご覧下さい。
相続放棄した者が相続財産の管理をやめたい場合
相続放棄をしたとしても、相続放棄時に占有していた相続財産があった場合には、他の相続人等に管理を引き継ぐまでの間は、その管理を継続する必要があります。
他に相続人が一人もいない場合には、管理を引き継いでもらえる者が相続財産清算人以外にはいないため、相続放棄した者が相続財産の管理をやめるためには、相続財産清算人の選任が必要となります。
民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
おわりに
今回のコラムでは、相続財産清算人とは何か、その選任が必要とされる代表的なケースについても解説しましたが、いかがだったでしょうか。少子化等の影響により、近年、相続財産清算人の利用件数は増加傾向にはありますが、まだまだ一般の方には馴染みの薄い制度です。相続人が全くいない状況で、「債権を回収したい」、「相続放棄後の遺産管理をやめたい」、「特別縁故者として遺産を受け取りたい」等の場合には、本コラムを頭の片隅に置いておき、相続財産清算人を思い出して頂ければと思います。
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