第208回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか – 保存義務の内容

相続コラム

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第208回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか – 保存義務の内容

第208回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか – 保存義務の内容

過去数回に渡って、相続放棄後の相続財産の管理義務について解説しています。相続財産の管理義務は、法改正によって「管理義務」から「保存義務」となっていますが、その具体的な内容は変わったのでしょうか。今回のコラムでは、相続財産の「保存義務」の内容と、法改正による影響について解説したいと思います。

 

相続財産の管理義務

相続放棄をしたとしても、遺産が物理的に消えてなくなるわけではないので、それをそのまま放置するというわけにもいきません。そのため、法律では、相続放棄をした相続人に、一定の要件の下に、遺産の管理を継続する義務を課しています。

 

現行民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない

 

現行法では、「その財産の管理を継続しなければならない」と定められていることから、「管理義務」と呼ばれていますが、令和5年4月1日施行の改正法では、「その財産を保存しなければならない」と改正され、「管理」ではなく「保存」となっているため、「保存義務」と呼ばれています。

 

改正民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない

 

「管理義務」と「保存義務」の違い

結論から言ってしまうと、「管理義務」と「保存義務」の中身に実質的な違いはないと思われます。呼び方が変わっただけと言ってもいいでしょう。

 

「保存義務」の具体的内容

少し専門的なお話しになりますが、「保存義務」の内容について、①消極的義務のみを負うという考え方と、②積極的義務も負うという考え方があります。

①消極的義務のみを負うという考え方は、相続財産を滅失させたり、損傷させたりする行為をしてはならないという消極的な義務のみが課せられているとする考え方です。簡単に言うと、「余計なことをして、遺産を壊したりしてはダメですよ。」という義務が課せられているという考え方です。

②積極的義務も負うという考え方は、滅失・毀損してはならないというだけではなく、相続財産の価値を維持するために必要な行為をしなければならないとする考え方です。簡単に言うと、こちらは価値を維持する行為も要求する考え方です。

どちらが正解かは、断定はできませんが、放棄者であっても、放棄時に特定の相続財産を占有していた以上、その財産につき、相続人等に引き渡すまで、相続財産を害してはならないのは当然とも言えますが(消極的義務を負う)、これに加え、財産の現状を維持するために必要な行為をしなければならないとすることは、放棄者の義務が重くなってしまい、相続放棄制度の趣旨に反するおそれがあるため妥当とは言い難いでしょう。そのような理由から、消極的義務のみを負うという考え方が多く支持されています。

管理義務も保存義務も、その内容として、どちらも消極的義務のみを負うと考えられる以上、法改正によって、その中身に実質的な変更はないものと思われます。

 

おわりに

相続放棄後の管理義務(改正後は保存義務)について、法改正によってどう変わるのか、管理義務の具体的中身に焦点をあてて解説しましたがいかがだったでしょうか。相続放棄後の管理義務については、大きく制度が変わるため、変更点はどこなのか、または、変わっているように見えて実は変わってない点はどこかなのかを見極めることは重要です。

当事務所では、長年相続問題に取り組んでおり、相続放棄を含む相続に関する相談を広く受け付けております。相談は初回無料となっておりますので、相続についてお悩みのある方は、お気軽にご相談ください。