第207回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか ?  – 管理義務の終期

相続コラム

相続コラム

相続コラム

相続コラム

第207回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか ?  – 管理義務の終期

第207回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか ?  – 管理義務の終期

前回のコラムでは、相続放棄後の管理義務について、法改正の前後でどのように変わるのか、「義務を負う相続人の範囲」に絞って解説しました。今回のコラムでは、相続放棄後の管理義務の終期について解説したいと思います。

 

相続放棄後の管理義務おさらい

故人に多額の借金がある場合、相続人が相続放棄を選択すると、相続人という地位から解放されますので、その放棄した相続人からすると、借金は“消えます”。しかし、いくら相続放棄をし相続人ではなくなったとしても、故人がのこしたその他の財産、例えば、故人の自宅等の不動産や家財道具等については、物理的にどこかに存在するわけですから、そのまま放置するというわけにもいきません。

そこで、法律では、相続放棄後の管理義務というものを設け、故人の遺産の管理を相続人(元相続人)に継続するよう定めています。

上記の管理義務を負う相続人の範囲について解説したのが前回のコラムとなります。
第206回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか ? 義務を負う相続人の範囲

 

相続放棄後の管理義務はいつまで続くのか

現行民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 

現行法の規定では、管理義務は「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」管理を継続しなければならないとされていますが、「管理を始めることができる」状態とは、一体どのような状態なのでしょうか。

例えば、先順位の相続人が相続放棄をし、後順位の相続人に対して、「私は相続放棄をしたので、後はよろしく。」と伝えれば、連絡を受けた以上「管理を始めることができる」と考えていいのでしょうか。それとも、具体的に、物を引き渡すなどの行為が必要なのでしょうか。

現行法の規定だけでは、いつまで管理義務を継続すればいいのか、必ずしも明らかとは言えません。

 

改正法では「引き渡すまでの間」と明文化された

改正民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

 

令和5年4月1日施行の改正法では、管理する期間を、相続財産を現に占有しているときは「当該財産を引き渡すまでの間」と定め、その終期を明確にしました。

後順位の相続人等に、占有していた遺産を「引き渡す」と、それ以降は、引渡しを受けた者が管理を継続することが可能となりますので、管理義務(改正法では保存義務)が終了します。単に連絡等をするだけでは足りず、実際に「引き渡し」が必要な旨が明らかになりました。

実は、現行法上も、解釈上「引き渡し」が必要と考えられていましたので、改正によってその点が明文化されたということになります。

現行法:「管理を始めることができるまで」
具体的にいつまでなのか明らかではないが、解釈上、単に連絡をしたのみでは足りず、実際に物を「引き渡し」する必要があるとされていた。

改正法:「引き渡すまでの間」
管理義務の終期を「引き渡すまでの間」と明文化した。

 

おわりに

今回のコラムでは、相続放棄後の管理義務の終期について解説しました。改正法によって、終期は明確化されましたが、「引き渡しを拒まれた場合にはどうしたらいいのか」、「不動産のような引き渡しが難しい物についてはどうなるのか」については、疑問が残ります。

現金や貴金属等、持ち運びが可能なものは、引き渡しを拒まれた場合でも、供託という特別な法律的手段によって、「引き渡し」に代えることができるため、管理義務を終了させることができますが、「不動産を供託」するには、裁判所の許可を得た上で、不動産を競売にかけ、売却代金を供託する必要があり、手間と時間がかかるし、金銭面でもあまり現実的とは言えません。

上記のような問題については、また別のコラムで解説したいと思います。

当事務所では、長年相続問題に取り組んでおり、相続放棄を含む相続に関する相談を広く受け付けております。相談は初回無料となっておりますので、相続についてお悩みのある方は、お気軽にご相談ください。