第206回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか – 義務を負う相続人の範囲

相続コラム

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第206回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか – 義務を負う相続人の範囲

第206回相続コラム 相続放棄後の管理義務は法改正でどう変わるのか – 義務を負う相続人の範囲

第204回相続コラム 相続人の全員が相続放棄した場合、相続財産の管理はどうなるのか?相続財産管理人について解説」では、相続放棄後の相続財産の管理義務について解説しました。実は、相続財産の管理義務については、曖昧な点が多く、また、いくつか問題点もあったため、令和5年4月1日施行の改正法では、管理義務の要件や内容等が変更されます。今回のコラムでは、現行法の問題点をおさらいしつつ、改正法の内容、管理義務を負う相続人の範囲について解説したいと思います。

 

管理義務を負う相続人は誰か

現行民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 

現行法上、「相続放棄をした者」が相続財産の管理義務を負うとされていますが、この「相続放棄をした者」とは、一体誰を指すのでしょうか。

例えば、先順位の相続人がいる場合には、後順位の相続人はまだ正式な相続人ではありません。先順位の相続人全員が相続放棄してはじめて正式な相続人となります。先順位の相続人が全員相続放棄した後、次いで後順位の相続人も相続放棄した場合、相続財産の管理義務を負うのは、一体、どちらの相続人なのでしょうか。また同一順位の相続人間でも、相続放棄のタイミングが異なる場合には、その先後によって、管理義務の有無は異なるのでしょうか。

現行法では、単に「相続放棄をした者」が管理義務を負うとされているのみですので、先順位者と後順位者とがいる場合、どちらの相続人が管理義務を負うのか、同順位者間でも相続放棄の先後によって管理義務を負う者も異なるのか、または、全ての相続放棄をした相続人が管理義務を負うのか、管理義務を負う相続人の範囲が必ずしも明らかではありません。

特に後順位の相続人の中には、故人と縁の薄い方もいるところ、どのような財産があるのかも正確に把握していない方に、突如として管理義務を負わせるのは酷なケースもあります。

 

改正法では「現に占有」している相続人が管理

改正民法第940条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

 

令和5年4月1日施行の改正法では、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」という要件が加えられたため、管理義務を負う相続人の範囲が明確になりました。ちなみに、「現に占有」とは、「事実上の支配」を意味します。

例えば、「被相続人所有の自宅に、被相続人と一緒に暮らしていた」というような相続人は、相続財産である自宅を「現に占有」していたといえるため、相続放棄後も管理義務を負うことになりますが、被相続人とは離れて暮らしていた相続人であれば、その不動産を「現に占有」していたとはいえないため、相続放棄後にも管理義務を負うことはありません。

簡単に言うと、「相続放棄する時点で、相続人の事実上の支配下にあった物は、相続放棄をしたとしても、管理を継続しなさい」ということです。逆に言えば、「自身が一切管理・支配していなかった物について、管理義務が発生することはありませんよ」ということなります。

 

おわりに

相続放棄後の管理義務(改正後は保存義務)について、法改正によってどう変わるのか、管理義務を負う相続人の範囲に焦点をあてて解説しましたがいかがだったでしょうか。

相続放棄は、本来、負の遺産から相続人を解放し、その負担を軽減するための制度のはずが、遠方の不動産の管理など、予想外の負担を相続人に負わせる結果になったり、そこから派生して、いわゆる「空き家問題」につながったりと、制度上の不備が見られました。改正法施行までには、まだ数ヶ月ありますので、相続放棄を検討する際には、管理義務の存在に留意することが大切です。

当事務所では、長年相続問題に取り組んでおり、相続放棄を含む相続に関する相談を広く受け付けております。相談は初回無料となっておりますので、相続についてお悩みのある方は、お気軽にご相談ください。