第119回相続コラム 自筆証書遺言の押印について徹底解説

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第119回相続コラム 自筆証書遺言の押印について徹底解説

第119回相続コラム 自筆証書遺言の押印について徹底解説

いくつかある遺言の方式の中でも、最も手軽で身近な遺言、それが自筆証書遺言。文字通り、自筆で作成する遺言で、最もポピュラーな方式です。この自筆証書遺言を作成するには、内容・日付・名前を自筆で書いて、押印する必要があります。遺言相談の際に、この押印について質問されることが多いので、今回のコラムでは、遺言の印鑑について解説したいと思います。

 

自筆証書遺言の押印の必要性

自筆証書遺言を作成するためには、法律で「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とされています(民法第968条)。

つまり「印を押さなければ」自筆証書遺言は有効とはなりません

 

判例による押印を要求する趣旨

自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解される

出典:最高裁判所第一小法廷判決-平成元年2月16日

 

遺言が有効になるための印鑑について

印鑑と一口にいっても、「実印」、「銀行印」、「認印」など、様々な種類のものがあります。また、親指に朱肉をつけて押す「拇印」というものもあります。それらのどれを使えば遺言は有効なのでしょうか?

実印・銀行印・認印

遺言に押す印鑑ですが、結論からいうと、実印でなくても有効です。これらの違いは、「第94回相続コラム 徹底解説 実印と印鑑証明書」をご覧下さい。

実印でも、銀行印でも、認印でも、朱肉をつけて押す印鑑であれば特に問題はありません

 

拇印・指印

親指に朱肉をつけて押す「拇印」。親指以外の指に朱肉をつけて押す「指印」。どちらを押した遺言も有効になります。こちらに関しては、下記のような最高裁判例があり、明確に有効である旨が述べられています。

自筆証書によつて遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもつて足りるものと解するのが相当である。

出典:最高裁判所第一小法廷判決-平成元年2月16日

 

 

花押

あまり一般的ではないですが、日本には「花押」(かおう)というものがあります。「花押」は、簡単にいうと、日本版サインのようなもので、自分オリジナルマークのようなものです。こちらを印の代用として用いることはできません。明確に否定した最高裁判例があります。

 

我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。以上によれば,花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。

出典:最高裁判所第二小法廷判決-平成28年6月3日

 

シャチハタ

ちょっと悩ましいのが「シャチハタ」。こちらも現段階では一応有効と考えられてそうです。「シャチハタ」でも明確にOK!といった裁判例は今のところ見当たりませんが、上の[最高裁判所第一小法廷判決-平成元年2月16日]を見る限り、一応有効と考えて良さそうです。ただし、オススメはしません

ところで「シャチハタ」ってなんだろう?

世間一般に浸透している「シャチハタ」。シヤチハタ株式会社さんが製造・販売しているインク浸透印のことを一般的に「シャチハタ」と呼んでいます。家庭でもビジネスシーンでも誰でも広く利用されていますが、重要な手続きでは「シャチハタ」が利用できない場合も少なくありません。

遺言の押印で「シャチハタ」をオススメできない理由

遺言の押印は重要な書類に真意を確認するために押すと考えると、「シャチハタ」ではちょっと真意の確認という意味で弱いと捉えられかねません

朱肉ではなくインクを使っている「シャチハタ」では、「それって印なの?スタンプじゃないの?」という疑義が生じかねません。先程の裁判例は「墨、朱肉等をつけて押捺」と表現していますが、「インク」については明言していません。「朱肉等」の「等」にインクが含まれていると考えれば問題ないのですが、実は「朱肉」と「インク」は全く別物との考え方もありますので、こちらも疑義が生じかねません。

「シャチハタ」は広く利用されているので、誰でも気軽に利用できます。ですので、第三者が勝手に押したのではないか?と疑いをかけられるおそれがあります。

リスク回避で「シャチハタ」は避ける

 

外国人が押印ではなくサインした場合

極めて例外的な話ですが、実は押印がなく、サインだけでも遺言が有効となった事例があります(最高裁判所昭和49年12月24日判決)。こちらは日本に帰化したロシア人の方の事案だったのですが、これをそのまま日本人に適用するのは難しいでしょう。実際に下級裁判所の判断で、日本人のサインのみの遺言を無効にした裁判例があります。日本人なら重要な文書には押印するのが普通でも、外国の方はそうとも限らないことがひとつの理由にあります。また逆に、日本人であれば一般的にサインというものをしませんが、重要な文書にサインをする慣行がある国の方が、そのサインをしていれば、サインした方の意思確認がとれるし、また偽造も難しいだろうという判断があります。

外国人の方の場合、極めて例外的ですがサインのみで遺言が有効になる場合がある
日本人の方はきちんと印鑑を利用しましょう。

遺言として有効であることと安心な遺言は別

遺言として有効であっても、後に、真正かどうか疑いが生じたり、それがもととなり相続人同士で争いになっては、せっかく残されたご家族のために遺言を書いたとしても本末転倒になりかねません。

遺言を作成する際には、有効な遺言として成立するために必要な印鑑を用いることはもちろん、後に相続人等で争いが生じないように、疑いが生じない・安心なものを用いるのをオススメします。

その意味では、実印を利用するのが、最も信頼性が高いといえます。
実印を用いた場合には、印鑑証明書も発行し、遺言と一緒に同封しておくのも手です。印鑑登録は、印鑑登録した者の死後は登録が抹消され、印鑑証明書をとることができなくなります。

 

迷ったら専門家へご相談ください。

今回のコラムでは、自筆証書遺言の押印について解説しましたが、「押印」ひとつとっても、掘り下げていくとかなり難しい話もでてきます。遺言をもっと安心なものにしたい・確実なものにしたなどのご要望がある場合には、専門家に相談することをオススメします。当事務所でも、広く相続・遺言に関するご相談を受けてますので、お気軽にご相談下さい。