第99回相続コラム 自筆証書遺言の印鑑についての裁判例まとめ

相続コラム

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第99回相続コラム 自筆証書遺言の印鑑についての裁判例まとめ

第99回相続コラム 自筆証書遺言の印鑑についての裁判例まとめ

最近何かと話題となる印鑑ですが、自筆証書遺言を作成するためには「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」(民法第968条)とされています。今回のコラムではこの「印」についての最高裁判決を3つ紹介しつつ、自筆証書遺言のおける「印」について解説します。

 

いわゆる「拇印」の可否

平成元年2月16日最高裁判決

「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもって足りるものと解するのが相当である。」

この最高裁判決は、印鑑を使う方法ではなく、遺言者が自分の指に朱肉などをつけて押捺する方法(いわゆる「拇印」)でも構わないとしています。

 

封筒の封じ目にされた押印でも有効の場合がある

平成6年6月24日最高裁判決

「右認定に係る事実関係の下において、遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印をもって民法968条1項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」

この最高裁判決は、遺言書本文ではなく、封筒の封じ目にされた押印のみで押印の要件に足りると判断をしています。ただし、具体的な事実関係の下での判断なので、本文に押印がなくても封筒に押印があれば必ず遺言書は有効、と考えるのはリスクがあります。

 

「花押」は自筆証書遺言の「印」としては認められない

平成28年6月3日最高裁判決

「我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。・・・花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。」

「花押」とは昔の戦国武将が使った手書きのサインのことで、現在も政府の閣僚が閣議決定の際に使うことがあるものです。この最高裁判決は「花押」を自筆証書遺言の「印」としては認めないと判断しました。

 

他にも、ごくごく例外的な事情を前提に印鑑の押印がなくても自筆証書遺言の有効性を認めた最高裁判決なども存在します。しかし、自筆証書遺言の作成にあたっては、遺言書の形式や内容に疑義が生じないように細心の注意を払う必要があります。自筆証書遺言には、あくまで本文に通常の印鑑を押印すべきでしょう。

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