第75回相続コラム 見落としがちな遺言能力

相続コラム

相続コラム

相続コラム

相続コラム

第75回相続コラム 見落としがちな遺言能力

第75回相続コラム 見落としがちな遺言能力

今年の7月10日から「自筆証書遺言保管制度」がスタートすることから、遺言を書く方が今後ますます増えると思われます。今回のコラムでは、遺言を書く際に必要とされる遺言能力について、具体的な相談例をもとに解説したいと思います。

遺言の相談例

成年被後見人である私の母(90歳)が「遺言書を書きたい」と言うことがあります。私も今後の相続に備えて母には遺言書を書いて欲しいと考えています。母は自分で文章を書くこともできます。母に遺言書を残してもらうことは可能でしょうか?

成年被後見人とは
認知症、精神障害、知的障害等の理由で法律などが絡む難しい事柄について判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人をいいます。成年後見開始の審判を受けると、本人は契約などを行うことが出来なくなり、審判の際に選任された後見人が代わりに法律行為を行うことになります。

 

遺言能力が必要

結論から言いますと、今回の事例では、お母様に有効な遺言書を書いていただくのは非常に困難です。

有効な遺言書を作成するためには、遺言者に「遺言の内容と、それが実現された結果を理解する能力」が必要です。この能力を「遺言能力」と言います。遺言能力の有無は、①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度、②遺言内容それ自体の複雑性、③遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等といった諸事情が考慮されて判断される、と一般に考えられています。

100歳は絶対無理、認知症だから絶対ダメ、と一概に言うことはできません。しかし、「支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」のが成年被後見人とされています。家庭裁判所で後見開始の審判がされている成年被後見人は、基本的に遺言能力もないと判断され、遺言書を作成することはできないと考えられます。

公証役場で作成された公正証書遺言であっても、親族間で争いになり、裁判で「遺言者に遺言する能力はなかった」と遺言書そのものが無効と判断される例もありますので、遺言能力は重要です。

 

民法第973条の例外

民法第973条は「成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。」としています。

つまり、成年被後見人であったとしても、一時的に判断能力が回復した場合には、医師の立会いやその他の要件を満たせば、遺言能力があるものとして、遺言が有効になる場合を法は認めています。ただし、実際にはこれらの要件を満たすのは非常に困難です。

 

遺言は元気なうちに

厚生労働省が発表している推計によれば、2025年の日本では65歳以上で5人に1人が認知症になるとされています。重要なのは、遺言書を書くなら「まだまだ元気」なうちに、ということです。15歳以上で上記の遺言能力があれば、遺言書を書くことは誰でも可能です。遺言書を書くのに早すぎるということはありません

当事務所では遺言書に関する相談を幅広く承っております。お気軽にご相談ください。