第156回相続コラム 配偶者居住権を利用すると相続税対策になる?利用の際の注意点についても解説

相続コラム

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第156回相続コラム 配偶者居住権を利用すると相続税対策になる?利用の際の注意点についても解説

第156回相続コラム 配偶者居住権を利用すると相続税対策になる?利用の際の注意点についても解説

前回のコラムでは、比較的新しい制度である「配偶者居住権」について、解説しましたが、その配偶者居住権は、賢く利用すると相続税対策になるとも言われています。今回のコラムでは、配偶者居住権を設定することが、なぜ相続税の節約になるのか、また、その際の注意点についても解説したいと思います。

 

配偶者居住権とは(前回のおさらい)

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、一定の要件のもとに終身または一定期間、無償で住み続けられる権利のことをいいます。

この配偶者居住権は、建物の価値を「自宅に住む権利(居住権)」と、「それ以外の権利(所有権)」に分離し、居住権を配偶者に相続させ、所有権を他の相続人に相続させることによって、残された配偶者が住む場所に困らないようにするための制度です。

配偶者居住権が成立する場合には、例えば、亡き夫が所有していた自宅の所有権を長男が相続しつつも、妻は配偶者居住権によりそのまま自宅に住み続けることが可能となり、相続人両者が、必要な財産を効率よく分配して相続することが可能となります。

詳しくは前回のコラム「第155回相続コラム 令和2年4月1日から施行された配偶者居住権とは」をご覧ください。

 

配偶者居住権がなぜ相続税の節約になるのか

配偶者居住権が成立する場合には、建物の価値が「自宅に住む権利(居住権)」と「それ以外の権利(所有権)」に分離されるものの、結局は両者とも相続人に相続されるため、その相続(1次相続)だけみると、特に相続税の節約にはなりません。

しかし、配偶者居住権を取得した者が亡くなった際(2次相続時)には、大きく節税効果が見込めます。

配偶者居住権は、配偶者に認められた特別な権利なため、配偶者が亡くなった際には、その配偶者居住権が相続されるということはなく、権利は権利者の死亡により消滅します。配偶者居住権が消滅するということは、配偶者居住権付き建物の所有者としては、利用権による制限がなくなり、完全な所有権を取得することになるため、いわば無償で配偶者居住権に相当する価値を取得したことになります。

その際に移転した価値には相続税が課税されないため、2次相続時の相続財産を減少させ、その分の節税効果が見込めることになるのです。

 

配偶者居住権は1次相続時の節税にはなりません。
2次相続時の相続財産は減少させることが可能なため、その分の税金・税率を減少させる効果があります。

 

配偶者居住権を取得した際の注意

配偶者居住権は、権利者が亡くなった際には、権利が消滅し、その消滅による擬似的な価値の移転には相続税はかかりませんが、配偶者居住権を生前に放棄すると、その放棄は価値の譲渡とみなされ贈与税が適用されます。

例えば、夫が亡くなり、夫が所有していた自宅について、妻が配偶者居住権を取得し、長男が所有権を相続していたような場合に、その後、妻が要介護となり、「やっぱり自宅を売却し、配偶者居住権相当額を高齢者施設の入居費用に充てたい」と考えたとします。
自宅を売却するためには、一度配偶者居住権を放棄する必要があるところ、その放棄によって、所有権が完全な状態となるため、一種の価値の移転が建物所有者にあったと税法上認められるため、建物所有者に贈与税がかかってしまいます。また、贈与税は相続税より高額になるのが一般的です。

権利者の死亡による権利の消滅と権利者の生前放棄も現象的には同様にも思えますが、両者の税務上の取り扱いに差異があるのは、無制限の生前放棄を認めると、配偶者居住権の本来の利用目的とはかけ離れた一種の脱税の手段となってしまうおそれがあるためと考えられます。

配偶者居住権の取得者の生前に、自宅を売却する予定がある場合には、配偶者居住権を利用しないか、その権利の存続期間の設定を短くするなどの対応が必要です。

 

配偶者居住権を節税目的で利用する場合には専門家に相談

配偶者居住権を賢く利用すると、大きな節税効果が見込めますが、利用法を誤るとかえって税金が高くなってしまうおそれもあります。また、「小規模宅地の特例」という節税手段との組み合わせ等も考えると、高度な専門的判断によるシミュレーションが必要になります。ですので、配偶者居住権を節税目的で利用する場合には専門家に相談することをおすすめします。

当事務所でも、相続税に強い税理士と連携して、効果的な相続対策についてのご相談を受けております。配偶者居住権や相続対策に興味のある方は、お気軽に当事務所までご相談ください。