第287回相続コラム 遺留分の主張ができない場合
過去数回にわたって遺留分に関するコラムを掲載しています。遺留分は不公平な相続を一定の範囲で是正し、相続人の生活を保障する重要な権利なのですが、相続分と比べるとまだまだ一般の方への認知度は低く、理解されていない方が少なくないのが現状です。今回のコラムでは、遺留分の主張ができない場合について解説したいと思います。
遺留分おさらい
遺留分とは、一定の相続人に最低限保障された遺産の取り分のことをいいます。
本来、遺産の元々の所有者である故人は、遺言等によって自由に財産を処分できるはずです。
しかし、故人の近親者である相続人には、故人の財産に生活を依存している人も少なくないところ、故人が亡くなった後の相続人の生活の安全を守ることは重要であり、法は、遺贈や贈与等によっても侵害できない、遺留分という最低限の遺産の取り分を保障しているのです。
具体的には、遺留分が認められる相続人は、遺留分侵害額請求権という権利を行使して、
遺贈等によって遺産をもらいすぎた者から、遺留分に相当する額の範囲で遺産を取り戻すことができます。
遺留分を主張できない場合
相続人が兄弟姉妹や甥・姪の場合
遺留分は、相続人の生活を保障する重要な権利ではありますが、遺留分を認めるということは、その範囲で、故人の遺贈等を制限するという側面もあるため、全ての相続人に認められた権利ではなく、一定の相続人のみに認められた権利となります。
そして、遺留分が認められる相続人は、配偶者、子や孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属に限られます。
被相続人の兄弟姉妹や甥・姪には遺留分は認められていません。
相続放棄をした場合
相続放棄とは、被相続人の権利義務の承継を拒否することをいいます。
相続放棄をすると、放棄をした相続人は、初めから相続人とならなかったものとみなされますので(民法939条)、相続人の権利である遺留分の主張もできなくなります。
相続欠格に当たる場合や相続人の廃除を受けた場合
相続欠格とは、法律に規定される不正な事由(相続欠格事由)が認められる場合に、その相続人の相続権を失わせる制度です。
ドラマなどでありそうな話ですが、被相続人を故意に殺害した場合や遺言書を偽造した場合等に、そのような不正を行う者の相続権を失わせるのが相続欠格という制度です。
相続欠格事由が認められる場合には、その者の相続権は失われますので、相続人の権利である遺留分も主張することはできなくなります。
相続欠格と似た制度として、相続人の廃除という制度があります。
相続人の廃除とは、相続人から虐待を受けたり著しい侮辱行為があった場合に、その相続人の相続権を奪う制度です。
相続人の廃除をする場合には、被相続人から家庭裁判所に申立を行うのですが、廃除の請求が裁判所に認められた場合には、廃除された相続人は相続権を失うため、遺留分の主張もできなくなります。
相続欠格について詳しい解説は「第13回相続コラム相続権を失ってしまう相続欠格とは?」をご覧ください。
相続人の廃除について詳しい解説は「第14回相続コラム 相続権を失なわせる廃除とは?」をご覧ください。
遺留分を放棄した場合
「第285回相続コラム 遺留分の放棄とは何か その方法も解説」で解説したように、遺留分は自らの意思で放棄することができます。
当然と言えば当然ですが、遺留分を放棄した場合には、その効果として、遺留分の主張はできなくなります。
遺産分割協議に同意した場合
遺産分割協議とは、相続人間で誰にどのように遺産を分配するか、遺産の分け方を協議することを言います。
遺産分割協議が有効に成立するためには、相続人全員の合意を必要としており、成立のための要件は厳しい反面、全員の合意が得られるのであれば、遺産をどのように分配しようが問題はありません。
ですので、遺留分を無視した内容の遺産分割協議も、相続人全員の合意があれば有効となり、一度自らの意思で内容に同意した以上、後から「同意はしたけど、やっぱり遺留分相当額は返して」という主張は認められません。つまり、遺産分割協議が成立した場合には、遺留分の主張も認められないことになります。
おわりに
今回のコラムでは、遺留分の主張ができない場合について解説しましたが、いかがだったでしょうか。遺留分は、一定の相続人に認められた最低限保障された遺産の取り分であり、いわば相続人の生活を守る最後の砦とも言えますが、今回のコラムで紹介したようなケースでは、その遺留分の主張もできなくなります。特に、遺産分割協議の場においては、一度同意をしてしまうと遺留分の主張もできなくなりますので、特に注意が必要です。
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