第286回相続コラム 間違えやすい遺留分と法定相続分の違い
前回、前々回のコラムでは遺留分に関するコラムを掲載しましたが、遺留分も法定相続分も、どちらも遺産に対する一定の取り分を指す用語という点で似ていることもあり、混同されがちな専門用語の代表格とも言えます。今回のコラムでは、よく間違えやすい遺留分と法定相続分の違いを解説したいと思います。
法定相続分とは
法定相続分とは、読んで字のごとく、法律で定められた『相続分』=『遺産の取り分』のことをいいます。
相続が発生し、遺言がない場合には、遺産分割協議によって、遺産を相続人間で分配することになります。
しかし、その際に、どの相続人が、どのくらいの割合で相続するのか、何らかのルールがないと、相続人間で遺産の奪い合いにもなりかねません。そこで、法律では、各相続人の遺産の取り分を定めており、それが法定相続分というわけです。通常、単に『相続分』という場合、この法定相続分を指すのが一般的です。
なお、法定相続分は法律で定められた遺産の取り分ではありますが、遺産分割協議の場において、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。遺産分割協議では、その成立要件として、相続人全員の合意を要求しているところ、分割の割合に全員が納得し、合意が形成できるのであれば、あえて法律で取り分を強制する必要がないからです。その意味では、法定相続分は、遺産分割の『目安』とも言えます。
各相続人の法定相続分について詳しくは
「第234回相続コラム 配偶者の相続分について」をご覧ください。
遺留分とは
相続人が遺産を常に相続分通りに相続できるとは限りません。例えば、故人が遺言を残しており、その遺言が遺産を全て第三者に遺贈する旨の遺言であった場合、遺産は全て第三者に遺贈されている以上、相続人は一切遺産を相続できないということになってしまいます。
しかし、相続人によっては、「遺産を生活資金の当てにしていた」というケースも少なくないところ、目当ての遺産を一切相続できないとなると、生活が困窮してしまうおそれがあります。
そこで、法律では、一定の相続人に遺留分という最低限の遺産の取り分を保障し、相続人の生活が困窮してしまうことを防いでいます。
上記の例では、全財産の遺贈を受けた第三者に対して、相続人は、遺留分侵害額請求権というものを行使して、「遺言によって遺産は全てあなたのものなりますが、私の遺留分相当額ももっていってしまっているので、遺留分を侵害している分のお金を私に返して下さい」と請求できることになります。
2019年の法改正により、遺留分は全て『お金』で清算することとされました。法改正前は、遺産を構成する不動産や貴金属等の『物』を遺留分の範囲で取り戻すことができましたが、法改正後は、物そのものは取り返すことはできず、物の価値をお金で計算して、全てお金で清算することになりました。
遺留分と法定相続分の違い
機能する場面の違い
法定相続分は、遺産分割の際に機能する分配の目安となりますが、遺留分は不公平な遺贈や贈与が行われた際に機能する最低限度の取り分となります。
権利の認められる人の違い
法定相続分が認められる法定相続人になれる人は、配偶者、子や孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹や甥・姪となります。
それに対して、遺留分が認められるのは、配偶者、直系卑属、直系尊属に限られ、兄弟姉妹や甥・姪が法定相続人となる場合にも、兄弟姉妹や甥・姪には遺留分は認められません。
計算方法の違い
法定相続分と遺留分は計算方法が異なります。
法定相続分は遺産をどう分けるのかという場面で機能する基準であるのに対して、遺留分は、不公平な遺贈等が行われた際に、最低限の取り分を保障するものであり、両者は異なる場面で機能する基準なため、計算方法も異なります。
遺留分の計算方法について詳しくは
「第30回相続コラム しっかり押さえたい遺留分の基本」をご覧ください。
法定相続分の計算について詳しくは
「第234回相続コラム 配偶者の相続分について」をご覧ください。
計算の際に対象となる財産
故人が所有していた財産は基本的に全て相続の対象となりますので、法定相続分を計算する際の対象には故人が有していた財産の全てというのが原則となります。
これに対して、遺留分は、不公平な遺贈等があった場合に、遺産がもらえなくなったり、遺産の取り分が減ってしまった相続人を救済する制度であるため、故人が有していた財産以外にも下記のものが遺留分を計算する際に対象となります。
■被相続人の死亡前1年以内に贈与された財産
■当事者が遺留分を侵害すると知りながら生前贈与した財産
■相続人へ死亡前10年以内に贈与された財産
時効の有無
遺産分割協議自体には、時効という概念がありませんので、法的には遺産分割はいつ行っても良いということになります。(ただし、他の制度との関係から、事実上、一定期間内に遺産分割協議をしなければならないケースもあります。例えば、相続税申告の際に特例の適用を受けたり、相続登記を申請する前提として遺産分割を行う場合などです。)
それに対して、遺留分を取り戻す遺留分侵害額請求権には時効があり、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年」経つと、消滅時効により権利を主張することができなくなります。また、相続開始から10年経過した場合にも、時効によって権利が消滅します。
おわりに
今回のコラムでは、よく間違えやすい遺留分と法定相続分の違いを解説しましたが、いかがだったでしょうか。遺留分も法定相続分も相続の問題を考える際の頻出用語となりますので、この機会にしっかりと違いをおさえておきたいところです。
遺留分対策を踏まえた遺言を作成をしたい、相続の場面でどのように遺産を分割したらいいのかわからない等のお悩みのある方は、相続の専門家にご相談ください。
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