第298回相続コラム 相談事例から解説する相続問題とその解決策 公正証書遺言を選択し、遺言執行者が必要だった理由

相続コラム

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第298回相続コラム 相談事例から解説する相続問題とその解決策 公正証書遺言を選択し、遺言執行者が必要だった理由

第298回相続コラム 相談事例から解説する相続問題とその解決策 公正証書遺言を選択し、遺言執行者が必要だった理由

ご自身が亡くなられた後、残されるご家族のことで不安なことはありませんか。今回のコラムでは、実際に当事務所でお受けした相談事例から、相続に関するお悩みを解決した事例をご紹介したいと思います。相談者の方のお悩みに対して、公正証書遺言を作成し、その作成の際に遺言執行者を定めることを提案した事例になりますが、なぜ、遺言の形式が公正証書遺言でなければならなかったのか、また、遺言執行者の定めを置くことが不可欠だったのはなぜなのかという点を詳しく解説しております。なお、相談事例の内容については、プライバシーに配慮し、また、わかりやすく解説するために、内容を一部改変しております。

 

相談事例概要

本事例の建物の状況

相談者Xさんは、夫Aから相続した都内の建物に長男のBと住んでおりますが、その建物は、元々は義理の父所有の建物であり、その建物を夫Aと夫の弟であるCが相続し、さらに数年前に夫Aが亡くなった際に、夫Aの持分をXさんが相続したという状況でした。

 

相談者のお悩み

相談者Xさんが長男Bさんと住んでいる家は、亡夫の弟であるCさんと共有名義になっているが、Cさんは海外に移住し、そこで結婚し暮らしているため、日本にある家(共有持分)については、XさんやBさんに継いでもらいたいし、Cさんのご家族も日本にある家の相続に関わるつもりはないということなので、Xさんは、自身とCさんが存命の間に(XさんもCさんも高齢)、Bさんが建物を最終的に全て相続できるよう準備をしておきたい、というのが今回の相談内容となります。

XさんにはBさん以外の相続人はいないので、Xさんの持分は、Xさんの死後、Bさんが自動的に全て相続することになります。

問題となるのは、Cさんの持分です。Cさんには、妻のEさんや子のDさんがいるので、何も相続対策をしないままCさんが亡くなると、Cさんの持分はEさんとDさんが相続することになります。

EさんもDさんも外国籍の方であり、日本語での意思疎通は難しく、また、Xさん自身もCさんのご家族とは、数回会ったことがあるという程度であり、Xさんの長男Bさんに至っては、EさんやDさんと面識がないという状況です。そんな中で、XさんやCさんが亡くなってしまうと、Bさんは、面識のない、しかも日本語で意思疎通が困難な親族と、自身が暮らす建物を共有することになってしまいます。

 

相続問題の解決 – 遺言書の作成

何の対策もせずにCさんが亡くなると、Cさんが所有している建物の共有持分はCさんの相続人であるDさんやEさんが相続することになるため、Cさんが建物の共有持分をBさんに受け継がせるには、その旨の遺言書を作成することが必要となります。

幸いなことに、Cさんは、Cさんの建物の共有持分をBさんが受け継ぐことに賛成しており、そのための協力も惜しまないということでしたので、相談者XさんはCさんに遺言書の作成をお願いするつもりでいました。

ただ、どのような遺言書を作成してもらえばいいのか、また、作成する遺言書は自筆証書遺言でいいのか、悩んでおりましたので、当事務所の解決策として、遺言書作成のサポートをするとともに、①自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を作成すべきということと、②遺言執行者を定めるべきことをご提案いたしました。

単に遺言書を作成するだけでなく、①公正証書遺言として作成し、かつ、②遺言執行者を定めたというのが今回の相談事例のポイントなります。

 

自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を選択した理由

自筆証書遺言という形式で遺言を作成した場合、その遺言を実際に執行する際には、原則として、裁判所で検認という手続きを経る必要があります。

検認とは、簡単に言うと、遺言書の中身が偽造されたり、変造されたりしないように、家庭裁判所という公的な機関において、遺言書の内容等をチェックする手続きになります。

この検認は、全国どこの家庭裁判所で行ってもよいというわけではなく、法律により管轄となる裁判所が定められております。

そして、検認の管轄裁判所は、「遺言者の最後の住所地」を管轄する家庭裁判所と定められています。

例えば、札幌市在住の遺言者の方が亡くなった場合には、「遺言者の最後の住所地」は「札幌市」となり、その札幌市を管轄する札幌家庭裁判所が管轄権を有することになりますので、札幌家庭裁判所に検認の申し立てをすることになります。仮に沖縄にある那覇家庭裁判所に検認の申し立てを行っても、「管轄権がない」という理由で、申し立ては却下されます。

今回の相談事例のように、海外在住の方が自筆証書遺言を作成し、海外で亡くなると、「遺言者の最後の住所地」は、その海外ということになります。しかし、海外について管轄権を有する裁判所は、日本国には存在しませんので、結果、遺言書の検認を行うことができず、遺言書はあるのに、その遺言書を相続手続きで利用することができなくなってしまうのです。

その点、公正証書遺言は検認が不要となりますので、「検認する裁判所がない」という問題を避けることができます。

なお、自筆証書遺言であっても、法務局で提供する自筆証書遺言書保管制度を利用すると、検認を省くことが可能です。

■自筆証書遺言は、原則として、検認という手続きが必要となる。
■海外在住の方が亡くなった場合、検認を行える管轄裁判所がない。
■公正証書遺言は検認が不要。

 

遺言執行者を定めた理由

遺言は、遺言作成者の最終意思をのこすツールではありますが、実際に、その最終意思である遺言の内容を実現するためには、様々な相続手続きを行う必要があります。

例えば、自身の所有する建物を特定の誰かに譲り渡す旨の遺言をのこしていたとしても、実際に、遺言のとおりに、建物の所有権を完全に移転させるためには、その建物の名義変更手続き(相続登記等)を行う必要があります。

そして、相続手続きを行う時点では、遺言作成者は既に亡くなっていますので、遺言作成者に代わって、手続きを行う者が必要となります。

今回の事例でいうと、CさんからBさんにCさんの建物共有持分を譲る遺言を作成したのですが、その遺言が実際に効力を発生する段階では、Cさんは既に亡くなっていますので、その共有持分を移転する登記については、BさんとCさんの相続人が共同申請することになるのが原則となります。

そうすると、Bさんが建物の共有持分を完全に取得するためには、Cさんの相続人であるDさんやEさんの協力が必要となってしまい、結局、海外にいる疎遠な親族と手続きを進めるためのやり取りが必要となってしまいます。また、申請人となるDさんやEさんに関する各種公的書類を揃える必要もありますが、外国籍の方の公的書類を収集するのには相当な労力が必要となります。

その点、遺言執行者を定めておけば、遺言執行者が相続人の代わりとなって手続きを行うことが可能となりますので、DさんやEさんの協力がなくても、Bさんへの名義変更手続きを進めることができます

遺言執行者は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と、法律上定められており、非常に強力な権限を持っています。

そのため、相続人の協力がなくとも、遺言の内容を実現するための手続きを進めることができます。

なお、遺言執行者として、特定の相続人や受遺者(遺贈を受ける者)を指定するケースは少なくありませんが、相続人以外の専門家に依頼することも可能です。

今回の相談事例でも、遺言執行者を遺言内で指定しておき、その遺言執行者として当事務所の司法書士をご指定いただいております。司法書士は、登記に関する国家資格を有する専門家のため、今回の事例のように複雑な相続のケースでも、相続人に手続き的負担を負わせることなく、安心して手続きを任せることが可能です。

■遺言の内容を実現する際には様々な相続手続きが必要となる。
■相続手続きは、遺言執行者がいなければ、原則として、相続人が行う(※例外的に、遺言執行者の選任が必須の場合もある)。
■遺言執行者がいる場合には、相続人の協力なしに、遺言執行者が手続きを進めることができる。

遺言執行者について詳しい解説は、「第188回相続コラム 遺言をのこすならセットで考えたい遺言執行者の選任」をご覧下さい。

 

おわりに

今回のコラムでは、実際に当事務所でお受けした相談事例から、相談者の方の相続に関するお悩みを解決した事例をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

当初、相談者Xさんは、「自筆証書遺言なら手軽に作成できるし、それを義理の弟に作成してもらおう」と考えていらっしゃいましたが、当事務所に相談することによって、「確実に手続きを進めることのできる公正証書遺言を作成することができ」、また、「遺言執行者を定めることにより、息子(長男B)と海外にいるDやEとのやり取りを省くことができた」と安心されていました。

遺言を作成することになったCさんも、「実家の問題を自分の代でしっかりと片をつけることができ」、また、「自分の家族を面倒な相続手続きに巻き込まずに済んだ」と喜ばれておりました。

相続に関するお悩みの解決には、誰に何をどのように相続させるのか、という実体面の問題だけではなく、実際に相続が発生した場面における手続き的な問題も考慮しながら、最善の策を講じる必要があります。

今回の事例で、仮に自筆証書遺言を作成していた場合には、実体としてBさんがCさんの共有持分を譲り受ける形にはなりますが、そのための手続きが行えないという事態になりますし、遺言執行者がいない場合にも、BさんやCさんの相続人が、相当ハードルの高い手続きを、互いに意思疎通が困難な中、進める必要が出てきてしまい、途中で頓挫する可能性が極めて高くなります。

今回の事例は、海外在住の親族がいるため、やや特殊なケースと思われる方も少なくないと思いますが、個々の相続のケースには、その相続ならではの事情が少なからず含まれているため、相続問題・相続対策を考える際には、一度、相続の専門家に相談し、必要な対策を検討されてみてはいかがでしょうか。誤った対策を講じてしまうと、講じた対策が思い通りの効果を生まないばかりか、場合によっては、かえって問題を複雑化してしまうおそれもあります。

当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。相談は、初回無料ですので、遺言の作成についてお困りの方はもちろん、相続についてわからないことや、お悩みのある方は、お気軽にご相談ください。