第289回相続コラム 相続放棄の手続きはどこでするの?被相続人の住所が不明な場合も解説
- 2024.09.02
- 相続手続
- 戸籍の附票, 死亡届記載事項証明書, 相続放棄, 管轄裁判所
相続が発生すると、原則として、故人(被相続人)が有していたプラスの財産だけでなく、借金や負債といったマイナスの財産も全て相続人が受け継ぐことになります。借金等を背負いたくないという場合には、相続放棄という手段があり、相続放棄をすると、プラスの財産を受け継ぐことはできなくなりますが、マイナスの財産を受け継ぐこともなくなります。では、相続放棄の手続きはどこで行えばよいのでしょうか。今回のコラムでは、相続放棄の手続きを行う場所について、被相続人の住所が不明な場合も含めて解説したいと思います。
相続放棄は家庭裁判所で行う
相続を放棄する場合には、「わたしは、相続放棄しますよ」と単純に意思表示するだけでは足りず、家庭裁判所にて手続きを行う必要があります。
民法938条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続放棄の手続きの詳細は「第16回相続コラム 相続放棄の手続き」をご覧ください。
家庭裁判所の管轄
家庭裁判所は全国各地にありますが、どこの家庭裁判所でも手続きができるというわけではありません。裁判所には管轄というものが定められていますので、管轄の裁判所にて手続きを行う必要があります。
相続放棄の管轄については、法律上、「相続が開始した地を管轄する家庭裁判所」と定められております。
家事事件手続法201条
相続の承認及び放棄に関する審判事件(別表第一の九十の項から九十五の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
「相続が開始した地」とは、被相続人の最後の住所地のことを指し、簡単に言うと、故人が亡くなった時に生活の拠点としていた住所のことを意味します。通常、被相続人の住民票(除票)に記載された住所が一般的には最後の住所地として扱われ、住民票記載の住所が相続放棄の管轄裁判所の基準となります。
例えば、ある人が亡くなり、その人の住民票が世田谷区にあった場合には、相続放棄をする場合には、世田谷区を管轄する家庭裁判所である東京家庭裁判所で相続放棄の申述を行うことになります。
裁判所の管轄については裁判所ホームページで確認できます。
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html
よくある間違いとして、相続の放棄をしようとする相続人自身の住所地を管轄する家庭裁判所に申述しようとする方もいらっしゃいますが、それは誤りですので注意が必要です。
被相続人の住所地の調べ方
故人と頻繁に連絡を取り合っていた等、故人の住所地がわかる場合には、住民票(除票)を取得して、被相続人の最後の住所地を確認すれば足りるのですが、故人と疎遠であり、どこに住んでいたのかわからないという場合にはどうしたらいいのでしょうか。
戸籍の附票を取得する
被相続人の住所地が不明であっても、被相続人の本籍がわかる場合には、住民票上の住所の履歴が記載されている「戸籍の附票」を取得することで住所地が判明する場合があります。戸籍の附票は、本籍地の市町村役場で取得することができます。
被相続人の本籍地が不明な場合には、相続人自身の出生時の戸籍から両親の戸籍へと戸籍を辿っていくと、いずれは被相続人の戸籍を取得することができます。ただ、不慣れな方が戸籍を辿っていくのは容易ではないため、司法書士等、相続手続きに明るい専門家に相談することをおすすめします。
不動産登記事項証明書を取得する
被相続人が不動産を所有していた場合には、不動産登記事項証明書を取得することで、住所地が判明する場合があります。不動産登記事項証明書には不動産の所有者の住所が記載されているためです。
ただし、登記簿上の住所が最新の故人の住所地を反映していない場合も少なくないため、その場合には、登記簿上の住所を手がかりに、最新の住所まで辿っていく必要があります。
死亡届記載事項証明書を取得する
人が亡くなった場合には、役所に死亡届が提出されているのが通常です。死亡届記載事項証明書とは、役所に提出された死亡届の写しになります。死亡届には、亡くなった方の、氏名や本籍地、住所が記載されているので、死亡届の記載事項証明書を取得することで、被相続人の最後の住所地を確認することができる場合があります。
死亡届は、死亡者の死亡地、死亡者の本籍地、届出人の住所地のいずれかの役所で一定期間保管された後、死亡した人の本籍地を管轄する法務局で保管されます。それらの役所で死亡届記載事項証明書を取得することができれば被相続人の最後の住所地を確認することができます。
なお、死亡届記載事項証明書は、誰でも取得可能な書類ではなく、一定の近親者しか請求することはできませんが、相続人であれば、通常、被相続人の近親者のはずですので、請求の要件を満たすのが普通です。
どうしても住所地を特定できない場合
戸籍等を辿れば、通常、被相続人の住所地が判明することがほとんどですが、どうしても住所地の手がかりとなる資料が見つからない場合は、家事事件手続法により東京都千代田区が管轄地となり、東京家庭裁判所が管轄裁判所となります。
おわりに
今回のコラムでは、相続放棄の手続きを行う場所について、被相続人の住所が不明な場合も含めて解説しましたが、いかがだったでしょうか。相続放棄の手続き自体は、そこまで複雑なものではありませんが、普段交流のない、疎遠だった親戚等の相続人となった際に、どこの家庭裁判所で手続きをすればよいのかわからないといったご相談を受けることが少なくないため、相続放棄の管轄裁判所を調べる際の参考にしていただければと思います。
当事務所では、相続・遺言・相続登記などに関する相談を広く受けております。相談は、初回無料ですので、相続についてわからないことや、お悩みのある方は、お気軽にご相談ください。
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