第281回相続コラム 父の遺産を全て母に相続させる方法とその注意点

相続コラム

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第281回相続コラム 父の遺産を全て母に相続させる方法とその注意点

第281回相続コラム 父の遺産を全て母に相続させる方法とその注意点

典型的な相続のケースとして、父が亡くなり、被相続人の妻である母と、その子が相続人というケースがあります。このような典型的な相続のケースでは、「とりあえず母が全て遺産を相続することにしよう」、「母の生活が心配だから母に遺産を全て譲りたい」と考えるご家族は多く、そのようなご相談を受けることが少なくありません。今回のコラムでは、亡くなった父の遺産を全て母に相続させる方法とその注意点について解説したいと思います。

 

父の遺産を全て母に相続させる方法

典型的な相続の事例として、父が亡くなり、その相続人として、母(被相続人の妻)と子2人がいる場合、法定相続分に従うと、被相続人の妻である母が1/2、子それぞれが1/4の割合で遺産を相続することになります。

遺産分割においては、法定相続分はひとつの分割の目安にはなりますが、必ず法定相続分通りに遺産を分割しなければならないというわけではありませんので、当事者である相続人間で合意が得られるのであれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。

ですので、父の遺産を全て母に相続させたいという場合には、母と子全員で遺産分割協議を行い、父の遺産を全て母が相続する旨の遺産分割協議書を作成すればよいことになります。

父の遺産を全て母が相続する旨の遺産分割協議書があれば、例えば、実家の名義を母の単独名義にすることが可能となりますし、また、凍結された預金口座も母名義に変更することも可能となります。

 

母に遺産を譲るために子が相続放棄するのはNG

母親に遺産を譲るために相続放棄したいという相談を受けることがありますが、母親のために子が相続放棄をしたとしても、意図した結果を得られない可能性があるので注意が必要となります。

例えば、父・母・子という家族構成で、父が亡くなった場合には、相続人は母と子の2人になります。ここで、子が相続放棄をした場合、必ずしも母のみが相続人になるとは限りません。仮に、父の両親が健在だった場合、子の相続放棄によって相続の順位が変動し、母と父の両親が相続人となりますし、また、父の両親は既に他界していたとしても、父に兄弟姉妹がいる場合には、母と父の兄弟姉妹が相続人となってしまいます。

相続人には順位があるため、後順位の相続人がいる場合に相続放棄をすると、相続権が後順位者に移る結果となり、母に全て遺産を相続させたいという目的を達成できないばかりか、母が義理の両親や義理の兄弟姉妹と遺産分割協議をしなければならなくなり、かえって相続手続きが複雑になってしまうおそれがあります。

 

母に遺産を全て相続させる際の注意点

遺産の額によっては二次相続時の税金が高くなる

父が亡くなった際には(一次相続)、母が全ての遺産を相続すると、配偶者控除を利用することにより、相続税が安くなるケースがほとんどとなりますが、その後、母も亡くなった際、これを二次相続と言いますが、その際には、配偶者控除は使えませんし、一次相続時より二次相続時の方が、単純に相続人の頭数も減っていることになるため、相続税の控除枠も減り、相続税が高額になってしまうケースがあります。遺産の額が大きい場合には、一次相続時だけでなく二次相続時を含めた相続税額のシミュレーションを行うことが重要となります。

 

認知症のリスク

遺産を全て母名義で相続させた後に、その母が認知症になってしまった場合、仮に、施設に入所する費用を捻出するために、実家を売却しようと思ったとしても、母名義の実家を売却するためには、母に家の売買契約を締結する能力が法律上要求されるため、認知症の母にはそのような能力はないものとして、実家の売却ができず、必要な入所費用の調達が困難になるおそれがあります。また、認知症と判断されると、銀行口座も凍結され、せっかく相続したお金も引き出すことができなくなってしまうおそれもあります。

認知症対策の一環として、母が高齢の場合には、いつでも実家を売却できるように、実家の名義を母名義ではなく子名義にしておくという方法も有効となります。

 

不動産の名義変更を忘れずに

典型的な相続のケースにおいて、実際、「父の遺産は全て母に相続させる」と考えるご家族は多く、そのような場合に、「いままでも父名義の実家に母が住んでおり、そのまま継続して母が住み続けるのだから、名義もそのままでいいか」として、不動産の名義変更を行わないケースも少なくありませんでした。

しかし、2024年4月1日からは、相続登記、すなわち、相続時の不動産の名義変更が義務化されましたので、相続によって不動産を相続した場合には、必ず名義変更をしなければなりませんので注意が必要です。

 

おわりに

今回のコラムでは、亡くなった父の遺産を全て母に相続させる方法とその注意点について解説しましたが、いかがだったでしょうか。父が亡くなり、被相続人の妻である母と、その子が相続人という典型的なケースでは、多くのご家族が、亡くなった父の遺産を全て母に相続させるという選択をされますが、その際には、相続放棄ではなく遺産分割協議を行うということと、本コラムで解説した注意点を踏まえて柔軟に対応することが大切となります。

亡くなった父の遺産を全て母に相続させたいけど、本当に全て母名義にして問題は生じないか不安という方や、二次相続対策や認知症のリスク対策に興味のある方は、相続の専門家に相談することをおすすめします。

当事務所では、相続に関するご相談を広く受けております。相続の手続きで、わからないこと、お困り事がありましたら、当事務所までご相談ください。初回相談は無料となっておりますので、お気軽にご相談ください。