第62回相続コラム 具体的事例で学ぶ家族信託
近年相続対策として注目されている手法の家族信託。当コラムでも複数回にわたって解説しています。今回は当相談所への実際の相談をもとに家族信託を用いた相続対策の活用事例を解説したいと思います。信託の基本的な仕組みについては「第59回相続コラム 最近注目の家族信託とは?」をご参照ください。
相談内容
私(Aさん)は今年75歳になります。妻(Bさん)と二人暮らしですが、子供はいません。自分が亡くなった後、妻の生活に不自由がないように、自宅や預金の全てを妻に相続させるつもりです。しかし、妻が亡くなった後、特に先祖から引き継いできた自宅不動産については妻の兄弟や妻の甥姪ではなく私の甥の一人(Cさん)に相続させたいのです。私は遺言書をどのように書けばよいでしょうか?
遺言書のみによる対策
Aさんのご希望を遺言書で実現する方法として、AさんとBさんがそれぞれ遺言書を作成する方法が考えられます。Aさんの死後、全ての財産をBさんに承継させる内容のAさんの遺言書の他に、Bさんの死後、さらに財産をCさんに承継させる内容のBさんの遺言書も遺しておく方法です。しかし、この方法によるとAさんの死後、Bさんの気持ちの変化による遺言書の書き換えのリスクがあることは否定できません。
家族信託を活用した対策
Aさんのご希望をAさん自身の遺言書だけで実現する方法があります。遺言書で以下の信託を設定する方法です。
Aさんの死後、受託者をCさん、受益者をBさんとして、Bさんが存命の間はCさんがBさんに必要な生活費等についてAさんの遺産から給付を行うこととします。また、Bさんの死亡によりこの信託は終了することとし、残った財産の帰属先はCさんに指定するのです。
こうすれば、Aさんの死後のBさんの生活は守られ、かつ先祖から引き継いできた自宅不動産を含むAさんの遺産は、妻のBさんを経て、最終的にCさんが承継することが可能になるのです。
家族信託は応用力がある
このように実現できる相続対策が遺言書よりも大きく広がる家族信託ではありますが、ご家族ごとに置かれているご状況やご希望は全く異なることもあり、信託契約書はただ雛形にあてはめて安易に作成しても不備があると逆にトラブルの元になりかねず、慎重かつ丁寧な検討が不可欠です。
当相談所では、信託契約書の作成のご依頼があった場合、入念にご事情やご希望をお伺いすることは勿論、当事務所の複数の司法書士で文案の作成検討を行い、税理士等他の専門家の協力を得ながら、信託契約書の作成をサポートさせていただきます。是非ご相談ください。
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